開発会社から契約書のひな形が届き、社内で押印の手続きを進めようとしたところ、経理から「この契約書、印紙はいくら貼るの?」と聞かれた。開発会社に聞くと「御社の控えの分は御社でお願いします」とだけ返ってくる。システム開発委託契約書に印紙が要るのか、いくら貼るのか、誰が負担するのかは、発注の手続きで意外とつまずきやすいところです。
結論から書くと、システム開発委託契約書に印紙が要るかどうかは、契約の中身が請負か準委任かでほぼ決まります。請負なら契約金額に応じた印紙が必要で、準委任だけなら印紙は要りません。この記事では、国税庁の質疑応答と税額表をもとに、契約書の種類ごとの扱い、税額の決まり方、負担の分け方、電子契約にした場合までを発注側の目線で整理します。
この記事のポイント
- 完成を約束する請負の開発契約書は第2号文書で契約金額に応じた印紙が要る
- 作業を提供するだけの準委任の契約書には印紙が要らない
- 印紙代は契約書を作った人が負担し2通作れば1通ずつ持つのが一般的
- 電子契約にすれば印紙税はかからない
目次
システム開発の委託契約書に印紙は必要か

印紙税は、印紙税法で決められた種類の文書にだけかかる税金です。国税庁は、課税されるかどうかは文書の名称や形式ではなく、記載されている内容の実質的な意味で判断すると説明しています。「業務委託契約書」という名前でも、中身によって印紙が要る場合と要らない場合があるということです。
システム開発の契約書で分かれ目になるのは、請負か準委任かという契約の性質です。順番に見ていきます。
請負なら第2号文書で印紙が要る
国税庁の質疑応答事例には、ソフトウェア開発の契約書そのものを扱ったプログラムの設計・開発契約書という事例があります。「プログラム設計・開発契約書」が課税されるかという照会に対し、国税庁は、プログラムを作成するという仕事の完成に対して報酬が支払われるので請負に該当し、第2号文書(請負に関する契約書)に当たると回答しています。
システムを完成させて納品し、その対価を支払うという一般的な受託開発の契約は、この請負に当たります。第2号文書は、契約書に書かれた契約金額に応じて印紙税額が決まります。1,000万円の開発なら1万円、3,000万円なら2万円、というように金額の帯ごとに段階的に上がる仕組みです。具体的な税額は後半の表で整理します。
準委任だけなら印紙は要らない
同じ質疑応答事例は、続けてこう書いています。支援業務などと呼ばれるような、契約の相手方の指揮監督のもとで単に労務だけを提供する契約は委任契約に当たり、支援業務だけを定めた契約書は課税文書に当たらない、というものです。
システム開発でいえば、要件定義の支援や、開発会社の技術者に一定期間作業してもらう準委任の契約がこれに近い形です。完成を約束するのではなく、作業そのものを提供してもらう契約なので、この部分だけの契約書なら印紙は要りません。
気をつけたいのは、1通の契約書に請負と準委任の両方が書かれている場合です。国税庁は、課税文書に当たるかどうかは文書全体だけでなく、記載されている個々の内容でも判断するとしています。要件定義は準委任、設計から開発は請負、とまとめて1通にした契約書なら、請負の部分があるので印紙が必要になると考えておいたほうが安全です。請負と準委任の違いそのものは受託開発と請負開発の違いと契約形態で詳しく整理しています。
基本契約書は第7号文書で4,000円
システム開発では、最初に基本契約書を結び、工程ごとに個別契約を結ぶ形がよく使われます。この基本契約書にも印紙が要ることがあります。
国税庁によると、営業者の間で請負などの取引を継続的に行うために、対価の支払方法や損害賠償の方法といった共通の取引条件を定める契約書は、第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に当たり、税額は1通につき4,000円です。ただし、契約期間が3か月以内で、更新の定めがないものは除かれます。
基本契約書に金額が書かれていない場合は第7号文書になり、個別契約書に金額が書かれていれば、個別契約書は第2号文書として金額に応じた印紙が必要になります。基本契約と個別契約の両方に印紙が要る、というのが一般的な形です。
保守契約と注文書・注文請書の扱い
納品後の保守契約も、中身によって扱いが変わります。国税庁の説明では、請負には機械保守や清掃のような役務の提供も含まれるとされています。月額の保守料金と契約期間が書かれていて金額を計算できる保守契約書は、第2号文書として扱われる例が質疑応答事例に挙げられています。一方、単価だけで期間が書かれておらず金額が計算できないものは、第7号文書になるとされています。保守の範囲の決め方は受託開発の保守と契約の判断軸で扱っています。
契約書を作らず、注文書と注文請書のやり取りで発注する場合もあります。国税庁は、注文書などの申込みの文書は通常は課税されないものの、相手の申込みを承諾したことを証明する目的で作られる文書は契約書に当たるとしています。開発会社が発行する注文請書は、請負の契約書として印紙が必要になるのが一般的です。
システム開発の委託契約書で印紙を確かめる点

印紙が要ると分かったら、次は金額と負担の分け方です。ここは契約書の書き方ひとつで変わる部分があるので、押印の前に確認しておきます。
税額は記載された契約金額で決まる
第2号文書(請負に関する契約書)の税額は、契約書に記載された契約金額で決まります。システム開発でよく出てくる金額帯を抜き出すと、次のとおりです。
| 記載された契約金額 | 印紙税額 |
|---|---|
| 100万円を超え200万円以下 | 400円 |
| 200万円を超え300万円以下 | 1,000円 |
| 300万円を超え500万円以下 | 2,000円 |
| 500万円を超え1,000万円以下 | 1万円 |
| 1,000万円を超え5,000万円以下 | 2万円 |
| 5,000万円を超え1億円以下 | 6万円 |
| 1億円を超え5億円以下 | 10万円 |
| 契約金額の記載のないもの | 200円 |
表は国税庁の税額表から、システム開発で出てきやすい金額帯を抜き出したものです。金額の帯はほかにもあるので、正確な税額は国税庁の一覧で確認してください。
見落としやすいのが消費税の書き方です。国税庁は、消費税額が区分して記載されている場合や、税込価格と税抜価格の両方が書かれている場合は、消費税額を記載金額に含めないとしています。国税庁の例では、「請負金額1,100万円うち消費税額等100万円」と書けば記載金額は1,000万円で印紙税は1万円ですが、「請負金額1,100万円(税込)」とだけ書くと記載金額は1,100万円として扱われ、2万円になります。
1,000万円の前後の案件なら、税抜の金額と消費税額を分けて書くだけで印紙税が変わることがあります。契約書のひな形を受け取ったら、金額の書き方を一度見ておくとよいでしょう。
印紙代はどちらが負担するか
印紙税法は、課税文書を作成した者が印紙税を納める義務があると定めています。さらに、1通の文書を2者以上が共同で作成した場合は、連帯して納める義務があるとしています。
システム開発の契約書は、同じ内容のものを2通作り、発注側と開発会社がそれぞれ署名押印して1通ずつ持つのが一般的です。この場合、2通とも契約の成立を証明する文書なので、2通それぞれに印紙が必要になります。実務では、自分が持つ1通の印紙は自分で負担する、という分け方がよく使われます。開発会社から「御社の控えの分は御社で」と言われるのは、この慣行によるものです。
一方、国税庁は、契約書の正本を複写機でコピーしただけで署名押印のないものは単なる写しにすぎず、課税対象にならないとしています。1通だけ原本を作って開発会社が保管し、発注側はコピーを持つ形にすれば、印紙は1通分で済みます。どちらが原本を持つか、印紙代をどう分けるかは法律で決まっているものではないので、契約の前に開発会社と決めておくと揉めません。
電子契約なら印紙は要らない
契約書を紙で作らず、電子契約サービスなどで締結する方法もあります。国税庁の質疑応答事例は、印紙税の課税対象は課税物件表に掲げられている文書であり、電磁的記録は文書に含まれないため、電子署名を付した電磁的記録には印紙税が課税されないと回答しています。
契約金額が大きく、基本契約と個別契約を何度も結ぶシステム開発では、電子契約にするだけで印紙代がまとまった額になることがあります。ただし、電子契約で結んだ契約書をあとから紙に印刷して、双方が署名押印し直すと、その紙は契約書として課税される可能性があります。電子で結んだものは電子のまま保管しておくのが基本です。
紙の契約書をPDFにしてメールで送る場合はどうか、という質問もよく受けます。国税庁は、ファックスや電子メールで送信した場合、正本は送付元に保存されていて送付先には交付されておらず、送付先で出力された文書は写しと同様なので課税対象にならないとしています。ただし、別に紙の原本を作って双方が署名押印し、それを保管している場合は、その原本には印紙が必要です。
貼り忘れると過怠税がかかる
印紙を貼り忘れた場合、契約そのものが無効になるわけではありません。ただし、税金の面では負担が増えます。国税庁によると、印紙を貼って納めるべき印紙税を納めなかった場合は、納めるべき印紙税の3倍に相当する過怠税がかかります。
税務調査の前に、自分から税務署に申し出た場合は1.1倍に軽くなります。また、印紙を貼っていても消印していなければ、その印紙の額面と同じ額の過怠税がかかります。過怠税は法人税の損金に算入できない点にも注意が必要です。
逆に、印紙税が要らない文書に誤って印紙を貼ってしまった場合や、多く貼りすぎた場合は、税務署に申請すれば還付を受けられることがあります。国税庁の説明では、準委任の契約書のような課税文書に当たらない文書に誤って貼ったものも還付の対象に挙げられています。
よくある質問
- Q. 開発会社から「印紙は御社負担で」と言われました。応じるべきですか?
- A. 法律上は、契約書を作った人が印紙税を納める義務を負い、共同で作った場合は連帯して納めます。どちらが負担するかを法律が細かく決めているわけではないので、分け方は当事者の話し合いで決まります。2通作って1通ずつ持つなら、それぞれ自分の分を負担する形がよく使われます。気になる場合は、原本を1通にしてコピーを持つ形も検討してください。
- Q. 契約書の名前が「業務委託契約書」なら印紙は要りませんか?
- A. 名前では決まりません。国税庁は、課税されるかどうかは文書の名称ではなく中身で判断するとしています。「業務委託契約書」という名前でも、システムの完成と納品を約束する内容なら請負として第2号文書に当たります。
- Q. 契約金額を変更する覚書にも印紙は要りますか?
- A. 要る場合があります。国税庁は、変更前の契約書を特定できる変更契約書で金額を増やす場合は、増えた金額を記載金額として扱うとしています。追加開発で金額を増やす覚書を交わすときは、増額分に応じた印紙が必要になると考えておいてください。
