数年前に「2025年の崖」という言葉を見て危機感を持ったものの、予算がつかないまま期限を過ぎた。何も起きていないので社内の関心も下がっている。それでも役員から「あれは結局どうなったのか」と聞かれると答えに詰まる。そういう状態でこの記事にたどり着いた方に向けて書きます。

先にお伝えすると、崖は特定の日に何かが起きるイベントではありませんでした。国の機関が毎年やっている調査を見ると、期限を過ぎた年度でも状況はほとんど動いていません。だからといって放っておいてよいという話でもなく、動かし方を変える必要があります。この記事では、期限後の現在地をデータで確認したうえで、2026年に何を決めればよいかを整理します。刷新の費用相場や方式の選び方は別の記事に譲ります。

この記事のポイント

  1. 期限を過ぎた調査でも、取組んでいない企業の割合は3年間ほぼ横ばい
  2. 崖は日付のイベントではなく、じわじわ続く状態だった
  3. 成果は出ているが中身は業務効率化に偏り、根本的な変革は進んでいない
  4. 2026年に決めるのは刷新の可否ではなく、いつ決めるかという期日
目次
  1. 2025年の崖とレガシーシステムの現在地
  2. 取組んでいない企業は3年間ほぼ横ばい
  3. 崖は日付のイベントではなかった
  4. 成果は出ているが中身が変わっていない
  5. 企業規模で状況がまったく違う
  6. 2025年の崖の後にレガシーシステムで決めること
  7. 決めるのは刷新の可否ではなく判断の期日
  8. 関心が下がった社内に議題を戻す
  9. 今年の判断に必要な材料
  10. 期日が無い場合は作ってよい
  11. 2025年の崖とレガシーシステムのよくある質問
  12. 総括:2025年の崖とレガシーシステムの判断軸

2025年の崖とレガシーシステムの現在地

1つ目の点から大きく下がったあと、残り3つの点がほぼ同じ高さで水平に続く折れ線を描き、状況が横ばいであることを表したフラットイラスト
期限を過ぎても、数字はほとんど動いていない

まず、いま何が起きているのかを数字で確認します。ここを押さえておくと、社内で聞かれたときに答えられますし、次に何をすべきかの判断も変わります。

取組んでいない企業は3年間ほぼ横ばい

IPAが毎年実施している調査の最新版が、国内企業のDX動向・AI活用動向のポイントとして2026年7月に公表されています。国内企業1,799社への調査です。

この中で、DXに「取組んでいない」と答えた企業の割合が経年で示されています。2022年度が29.2%、2023年度が19.3%、2024年度が19.9%、そして2025年度が20.5%でした。2022年度から2023年度にかけて下がったあとは、3年間ほとんど動いていません。資料でも「DXの取組割合や取組形態は一定の水準で推移しています」と書かれています。

つまり、期限とされた2025年を含む年度の調査でも、5社に1社は取り組んでいない状態が続いているということです。期限を境に急に進んだわけでも、急に何かが起きたわけでもありません。

なおこの調査はDX全般が対象で、レガシーシステムがどれだけ残っているかを直接聞いたものではありません。それでも、崖の議論が想定していた「刷新の集中期間」が実際には起きなかったことを示す材料にはなります。

崖は日付のイベントではなかった

この数字を踏まえると、崖という言葉の受け取り方を変える必要があります。

もともとの警告は、期限までに手を打たないと大きな損失が出るという趣旨でした。ただ実際に起きたのは、特定の日を境にした断絶ではなく、動いた会社と動かなかった会社の差がじわじわ開いていく状態です。だから「何も起きていない」という社内の実感も、事実としては正しいのです。

ここを認めたうえで話を進めるほうが、社内では通りやすくなります。「期限を過ぎたのに何もしていない」と危機感で押すと、前回と同じ反応が返ってきて終わります。起きるのは突然の停止ではなく、直せる人がいなくなる、改修のたびに高くなる、といった形での目詰まりです。

差が開くというのは、具体的には選べる相手が減っていくということです。同じ古い環境を扱える会社は毎年少しずつ減り、対応できる会社が限られてくると、こちらに価格や納期の交渉余地がなくなります。法改正への対応を頼んだときに、以前と同じ内容なのに見積もりが跳ね上がるのは、この状態に入ったサインです。突然倒れるのではなく、選択肢が静かに狭まっていくと考えてください。

成果は出ているが中身が変わっていない

同じ調査には、もうひとつ見ておきたい数字があります。DXの取組で成果が出ているかを聞いたところ、60.8%の企業が「成果が出ている」と答えています。数字だけ見ると悪くありません。

ただし成果の中身を項目別に見ると、傾向がはっきりしています。「アナログ・物理データのデジタル化」や「業務の効率化による生産性の向上」では高い水準が続いている一方、「顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの根本的な変革」といった項目は相対的に低いままです。資料も「企業価値創出につながる項目では低い状況が続いています」としています。

紙をなくす、手作業を減らすといった取り組みは進んだ。けれども、古い仕組みを土台から作り替えて事業のやり方を変えるところまでは届いていない。崖の議論が本来問題にしていたのは後者です。発注側の実感としても、日々の効率化は進んだが基幹の仕組みは20年前のまま、という会社は多いはずです。

企業規模で状況がまったく違う

もう1点、崖の話が一般論に聞こえてしまう理由があります。企業規模によって状況がまるで違うからです。

同じ調査でAIの導入状況を従業員規模別に見ると、全体では42.3%が導入しているのに対し、従業員1,001人以上では78.3%、100人以下では16.6%でした。同じ「日本企業の状況」として語られていても、実態は規模で大きく分かれています。

これはAIに限った話ではありません。大企業向けに書かれた進め方をそのまま持ち込むと、人も予算も足りずに止まります。規模が小さい会社がどう進めるかは、中小企業のレガシーシステム刷新は誰が決める?予算の作り方も解説で整理していますので、自社が当てはまる場合はそちらを先に読んでください。

2025年の崖の後にレガシーシステムで決めること

会議室で20代から40代の男女3名が年間の予定表を前に、いつ判断するかの期日を相談している引きの場面
危機感ではなく、自社側の期日で議題に戻す

現在地が分かったところで、2026年に何を決めるかです。結論から言うと、決めるのは刷新するかどうかではありません。

決めるのは刷新の可否ではなく判断の期日

「刷新するかどうか」を議題にすると、金額の話になり、予算がないので見送り、という流れを毎年繰り返すことになります。実際、多くの会社がこの数年そうなってきました。

そうではなく、「いつ判断するか」を先に決めます。たとえば「来年3月までに、現状を調べたうえで刷新するかどうかを決める」という形です。判断の期日なら予算がほとんどかからないので、その場で決められます。

期日が決まると、そこから逆算して必要なことが出てきます。判断するには現状が分かっていないといけないので、調査の予算が必要になる。調査を頼むには相手を探す必要がある。こうして具体的な作業に落ちていきます。刷新に踏み切るかどうかの判断軸そのものは、基幹システムのリプレイスとは?進め方と発注側の判断基準で整理しています。

関心が下がった社内に議題を戻す

問題は、期限を過ぎて社内の関心が下がっていることです。ここで「国が警告しています」と繰り返しても、前回と同じ結果になります。

効くのは、自社側の期日で話すことです。サーバーや保守契約がいつ切れるか、担当している人がいつ定年を迎えるか、取引先から求められている対応がいつまでか。こうした自社の日付は、外部の警告よりも具体的で反論しにくくなります。

「あと2年で保守が切れます。切れてから慌てると選べる相手が減るので、来年3月までに方針を決めさせてください」。この言い方なら、危機感に頼らずに議題へ戻せます。自社側の日付が見当たらない場合の考え方は、レガシーシステムのセキュリティは本当に危険?判断の順番を解説で整理した危険度の測り方が使えます。

取引先の都合が期日になることもあります。受発注のやりとりの方式を変えると言われている、帳票の形式を指定された、といった話は、こちらの都合に関係なく期限が決まります。営業や購買の部署が先に把握していることが多いので、社内で一度聞いてみてください。自社のシステム部門だけで探していると見つからない期日が出てきます。

今年の判断に必要な材料

判断の期日を決めたら、それまでに揃えるものがあります。次の5つが手元にあれば、刷新するかしないかを議論できる状態になります。

判断の期日までに揃えるもの

  • 対象システムの導入時期と、作った会社が今も対応できるか
  • 保守契約の期限と、延長できるかどうか
  • 担当している人の在籍見込みと、その人しか知らない業務の範囲
  • この2〜3年で改修にかけてきた金額の合計
  • あと何年この業務を続ける予定か

意外に効くのが4つ目です。毎年の改修費は少額に見えても、3年分を合計すると刷新の見積もりと比較できる規模になっていることがあります。単年で見ていると気づけないので、一度足してみてください。

3つ目も早めに手を付けてください。その人しか知らない業務の範囲は、本人がいるうちにしか確認できません。しかも聞き出すのに時間がかかるので、判断の期日の直前に始めると間に合わなくなります。担当者に「あなたしか分からない処理はどれですか」と聞いて、一覧にしておくだけで十分です。

期日が無い場合は作ってよい

ここまで読んで「保守期限も退職予定も特にない」という場合もあると思います。その場合は、期日を自社で作ってしまって構いません。

作り方はシンプルで、「この業務をあと何年続けるか」を先に決めることです。あと3年なら、今の仕組みで走り切って終わりにするという判断もあり得ます。あと10年なら、どこかで作り替える前提で計画を立てることになります。この年数が決まっていないと、刷新の金額が高いのか妥当なのかも判断できません。

年数を決めるときは、事業側にも確認してください。システム担当だけで決めると「なるべく長く使う」に寄りがちですが、事業の計画では数年後に取扱品目や拠点が変わる予定になっていることがあります。その場合は、変わるタイミングに合わせるのがいちばん無駄がありません。

年数を決めたうえで、実際にいくらかかりそうかの感触を掴みたい場合は、複数の会社に同じ条件で状況を聞くのが早道です。RFI(情報提供依頼書)テンプレートに聞くべき項目が並んでいるので、埋めながら渡す情報を整理する使い方もできます。

2025年の崖とレガシーシステムのよくある質問

Q. 2025年の崖は結局どうなったのですか?
A. 特定の日に何かが起きるイベントにはなりませんでした。IPAの調査ではDXに取組んでいない企業の割合が2023年度19.3%、2024年度19.9%、2025年度20.5%とほぼ横ばいで、期限を境に状況が動いた形跡はありません。ただし動いた会社との差はじわじわ開いています。
Q. 何も起きていないので、このままでもよいのでは?
A. 突然停止するような形では起きません。実際に起きるのは、直せる人がいなくなる、改修のたびに金額が上がる、といった目詰まりです。今すぐ全部を作り替える必要はありませんが、いつ判断するかだけは決めておいてください。
Q. うちは業務効率化を進めてきたので大丈夫ですか?
A. 同じ調査では、成果はデジタル化や業務効率化の項目で高く、事業のやり方を変える項目では低い状況が続いています。紙を減らす取り組みと、古い基幹の仕組みを作り替えることは別なので、後者が手つかずなら状況は変わっていません。
Q. 社内の関心が下がっていて話を戻せません。
A. 国の警告ではなく、自社側の日付で話してください。保守契約の期限、担当者の退職予定、取引先から求められている対応期限。外部の警告より具体的で、反論されにくくなります。
Q. 今年中に刷新を決めないといけませんか?
A. 刷新の可否ではなく、判断の期日を決めてください。期日なら予算をほとんど使わずにその場で決められます。期日が決まると、調査や相談といった具体的な作業に落ちていきます。