「そろそろシステムを入れ替えませんか」と担当会社から言われている。必要なのは分かるけれど、社内にITを判断できる人がいないし、いくら用意すればいいのかも見当がつかない。そのまま何年も先送りにしている、という状態でこの記事にたどり着いた方に向けて書きます。
先にお伝えすると、人も予算も足りないのは中小企業では例外ではなく標準です。国の機関の調査でも、そもそも進め方を決めていない会社が3分の2にのぼることが分かっています。裏を返せば、つまずいているのは技術の選択でも会社選びでもなく、社内で誰が何をどの順番で決めるかが決まっていないことです。この記事では、その決め方と、予算をどう作るかに絞って整理します。どの方式で作り替えるかや費用の相場は別の記事に譲ります。
この記事のポイント
- 中小企業がつまずくのは技術の選択ではなく、決める人と決める順番が社内に無いこと
- 決裁者と窓口は分ける。兼務の担当者に決裁まで背負わせない
- 業務の正解は社内にしかないので外注できない。技術の選定は外に出してよい
- 予算は年度ではなく段階で割る。最初に取るのは調査の予算だけでよい
目次
中小企業のレガシーシステム刷新は誰が決めるのか

金額や方式の話に入る前に、社内の体制から決めます。ここが決まっていないと、見積もりを取っても社内で判断できず、結局そのまま止まるからです。実際、止まっている会社の多くは提案書が足りないのではなく、決める人が決まっていません。
つまずくのは技術ではなく決める順番
まず現状を数字で確認しておきます。中小企業基盤整備機構が公開している中小企業のDX推進に関する調査(2025年)では、全国の中小企業の経営者・経営幹部1,000社に聞いた結果として、進め方を示すビジョンや経営戦略・ロードマップが「未策定」の会社が66.0%と報告されています。策定済みは9.3%にとどまります。
課題として挙がった上位も、1位が「ITに関わる人材が足りない」28.3%、2位が「予算の確保が難しい」26.0%、3位が「DX推進に関わる人材が足りない」25.6%でした。技術の難しさや会社選びではなく、人と予算と順番が並んでいます。
この調査で注目したいのは回答企業の規模です。従業員5人以下が34.1%、6人から20人が18.9%を占めており、回答の過半が20人以下の会社になります。つまり、社内にシステムの専任担当がいないのは特殊な状況ではなく、むしろ普通だという前提で進め方を組む必要があります。
なおこの調査はDX全般が対象で、レガシーシステムの刷新だけを聞いたものではありません。それでも「決めるための土台が無い会社が3分の2」という事実は、刷新の相談が止まる理由をよく説明しています。逆に言えば、すでに動き出している会社でも未策定が29.6%あるので、途中からでも順番は決め直せるということでもあります。
決裁者と窓口は別の人が持つ
体制で最初にやるのは、決裁者と窓口を別の人にすることです。小さい会社では総務や経理の方がシステム担当を兼務していることが多く、その方に相談も判断も全部が集まってしまいます。
しかし兼務の担当者には、数千万円の投資を決める権限も、決めた責任を負う立場もありません。それなのに判断を求められるので、動けなくなります。止まっている案件を見ると、担当者の能力の問題ではなく、権限と責任が渡されていないことがほとんどです。
だから決裁は社長または役員が持ち、担当者は窓口に徹する形にします。窓口の仕事は、聞かれたことを社内で確認して返すこと、打ち合わせの内容を決裁者に伝えることの2つに絞ります。技術的な良し悪しを担当者が判断する必要はありません。この分担を最初に開発会社にも伝えておくと、提案の宛先がぶれなくなります。
社内に残す判断と外に出す判断
次に、何を外に任せて何を自社で持つかを分けます。ここを曖昧にすると、外に任せすぎて後で使えないものが出てくるか、抱え込みすぎて進まないかのどちらかになります。
分け方はシンプルで、業務のことは社内、技術のことは社外です。今の業務がどう回っているか、どの処理が絶対に止められないか、例外的な運用がどこにあるかは、社内の人しか知りません。ここは調べてもらうことはできても、正解を決めるのは自社です。一方で、どの方式で作るか、どの製品を使うか、どういう順番で切り替えるかは、外の会社のほうが判断材料を持っています。
社内に判断できる人がまったくいない場合は、業務側の判断を助ける役割だけを外部に頼む選択もあります。ただし作る会社と助言する会社を同じにすると、判断の中立性が保てません。社内の人が足りない場合の補い方は、レガシーシステムの人材不足はどうする?退職前に決めることで整理しています。
情シスがいない会社が最初に決める3つ
体制の話をまとめると、最初に決めるのは次の3つだけで足ります。ここが決まれば、開発会社との会話が成立するようになります。
| 決めること | 決める人 | 決まっていないと起きること |
|---|---|---|
| あと何年この業務を続けるか | 社長・役員 | 投資の上限が決まらず、提案の金額を判断できない |
| 絶対に止められない業務はどれか | 業務の責任者 | 切り替えの順番が決められず、範囲が全体に広がる |
| 誰が窓口をやるか | 社長・役員 | 質問の宛先が定まらず、確認のたびに止まる |
1つ目が特に効きます。あと3年なのか10年なのかで、かけてよい金額も、作り替えるか直して使うかも変わります。そもそも作り替えるべきかどうかの判断軸は、基幹システムのリプレイスとは?進め方と発注側の判断基準で整理していますので、迷う場合は先にそちらを確認してください。
中小企業のレガシーシステム刷新の予算をどう作るか

体制が決まったら予算です。調査で課題の2位に挙がっていたとおり、ここが中小企業にとって一番重い部分になります。ただし、いきなり総額を用意する必要はありません。
予算は年度ではなく段階で割る
よくあるのは「来年度の予算に刷新費として一括で計上する」という進め方です。これは大きな会社のやり方で、社内に見積もりを検証できる人がいる前提の話になります。中小企業がこれをやると、金額の根拠が薄いまま大きな数字を上げることになり、稟議が通らないか、通ったとしても途中で足りなくなります。
そうではなく、調査・移行・定着の3段階に分けて、段階ごとに予算を出す形にします。段階を分ける最大の利点は、途中で止められることです。調べてみたら想定より軽く済むかもしれないし、逆に手を出すべきではないと分かるかもしれません。一括で取ってしまうと、この判断ができなくなります。
段階ごとに区切ると、社内での説明も楽になります。「まず現状を調べる費用として、この金額をください」のほうが、根拠のない総額より通りやすいのは想像がつくと思います。
最初に取るのは調査の予算だけでよい
では最初にいくら取るか。答えは、現状を調べる分だけです。
古いシステムは、設計書が残っていなかったり、担当者しか知らない例外処理が入っていたりします。この状態では、どんなに腕のいい会社でも正確な金額は出せません。だから最初にやるのは、中身を調べて刷新の見積もりが取れる状態にすることであって、刷新そのものではありません。
調査を単独で発注しておくと、その結果は自社の資産として残ります。複数の会社に見積もりを頼むときも、同じ資料を渡せるので金額を比べられるようになります。どこまで調べれば足りるか、成果物として何を受け取るかは、レガシーシステムの解析はどこまで必要?費用と頼み方で整理しています。
見積もりを取る前に社内で揃えるもの
調査を頼むにせよ刷新を相談するにせよ、こちらの情報が揃っていないと相手は広めに見積もります。次の項目を先に社内で用意しておいてください。
相談の前に社内で揃えておくもの
- 今使っているシステムの名前・導入時期・作った会社(分かる範囲で)
- 今も保守契約が続いているか、続いていないか
- 絶対に止められない業務と、その繁忙期
- 使っている人の数と、他システムとのつながり(会計・給与など)
- あと何年この業務を続ける予定か
- 窓口になる人の名前と、決裁する人の名前
専門用語で答える必要はありません。分からない項目は「分からない」と伝えるだけで十分です。むしろ曖昧なまま推測で答えるほうが、あとで前提が食い違う原因になります。
複数の会社に同じ内容を聞いて比べたい場合は、この情報をまとめた依頼書の形にしておくと手間が減ります。RFI(情報提供依頼書)テンプレートに必要な項目が並んでいるので、埋めながら社内の情報を整理する使い方もできます。
効果が見えないと次の予算が出ない
段階で予算を割るときに、ひとつだけ注意があります。次の段階の予算を出してもらうには、前の段階で何が良くなったのかを示す必要があるということです。
先ほどの調査では、すでに取り組んでいる会社でも「具体的な効果や成果が見えない」と答えた割合が18.5%ありました。動いてはいるものの、成果を説明できていない会社が一定数あるということです。この状態になると、次の投資の話が出たときに社内で反対されます。
防ぐには、最初の段階を始める前に、何をもって良くなったとするかを決めておきます。月末の締め作業が何日短くなったか、問い合わせ対応に何時間かかっていたか、障害で業務が止まった回数が何回だったか。難しい指標である必要はなく、着手前の数字を記録しておくだけで十分です。着手前を測っていないと、あとから比べようがなくなります。
中小企業のレガシーシステムについてよくある質問
- Q. 社内にITが分かる人が一人もいませんが、進められますか?
- A. 進められます。必要なのは技術が分かる人ではなく、決裁する人と窓口になる人を決めることです。業務のことは社内が答え、技術のことは外部に任せる形にすれば、専門知識がなくても判断できます。ただし作る会社と助言する会社を同じにすると中立性が保てないため、そこだけは分けてください。
- Q. 予算はいくら用意しておけばよいですか?
- A. 最初は現状を調べる分だけで足ります。設計書が残っていない古いシステムでは、調べる前に正確な金額は出せないためです。総額を先に決めると根拠の薄い数字になるので、調査・移行・定着の3段階に分けて、段階ごとに出す形にしてください。
- Q. 担当会社から刷新を勧められていますが、鵜呑みにしてよいですか?
- A. 提案の中身より先に、あと何年その業務を続けるかを自社で決めてください。残り年数が短ければ直して使うほうが合理的なこともあります。判断の順番が逆になると、相手の都合で範囲が決まってしまいます。
- Q. 補助金を待ってから動いたほうがよいですか?
- A. 調査の段階は補助金を待たずに進めてよいと考えます。現状が分からないと申請に必要な計画も書けないためです。補助金は金額を下げる手段であって、進め方を決める理由にはなりません。
- Q. 兼務の担当者が忙しくて手が回りません。
- A. 窓口の仕事を「聞かれたことを社内で確認して返す」「打ち合わせの内容を決裁者に伝える」の2つに絞ってください。技術的な良し悪しの判断まで担当者に求めると、そこで止まります。判断は決裁者、確認は窓口という分担を、開発会社にも先に伝えておくと負荷が下がります。
