会員向けのスマホアプリを作ることになり、社内に作れる人がいないので外注する。見積もりは取り始めたけれど、アプリを外注したことがないので費用以外に何を決めておくべきかが分かりません。調べると出てくるのは費用相場と外注先の選び方ばかりですが、アプリにはシステム開発の外注にはない決めごとがあります。この記事では、そこに絞って整理します。個人開発や副業でアプリを作る話は出てきません。

この記事のポイント

  1. ストアのアカウントは自社名義で作るのが原則
  2. 開発会社名義だと販売元の表示が相手の名前になる
  3. 審査には開発会社が用意できない書類がある
  4. OSの更新で毎年改修が要るので年間費用を見積もりに入れる
目次
  1. アプリ開発の外注で先に決める3点
  2. アプリには公開の関門がある
  3. ストアのアカウントを誰の名義で作るか
  4. 審査で発注側が用意するもの
  5. OSの更新で毎年改修が要る
  6. アプリ開発の外注先を決める前に確かめること
  7. 見積もりに公開後の費用が入っているか
  8. 個人に頼むか会社に頼むか
  9. 内製か外注かの判断はシステムと同じ
  10. 総括:アプリ開発の外注で先に決めること

アプリ開発の外注で先に決める3点

2つの箱をつなぐ線の途中に、ひとつだけ色の違う中継点が置かれていることを示した図
アプリは、自社と利用者のあいだにストアという関門が入ります

アプリの外注がシステムの外注と違うのは、作ったものを自分たちの判断だけで世に出せないところです。ここから3つの決めごとが派生します。

アプリには公開の関門がある

社内で使う業務システムなら、完成して受け入れテストが済めば、あとは自社の都合で使い始められます。アプリは違います。App StoreやGoogle Playの審査を通らないと、誰にも届きません。

審査に出すのは開発会社の作業ですが、通すために発注側が用意する書類があります。そして審査は一度で通るとは限りません。差し戻されて修正して再提出、というやりとりが数日から数週間続くこともあります。

この前提があるので、公開日を先に約束するのは危険です。「◯月◯日に公開」と社内やプレスに出してしまうと、審査が長引いたときに逃げ場がなくなります。開発の完了日と公開日は分けて考え、公開日には余裕を持たせてください。

もうひとつ、公開の関門は「出したら終わり」ではありません。機能を追加するたびに、また審査を通ります。日常的な改修でも、社内システムなら翌日に反映できるものが、アプリだと数日待ちになります。急ぎの修正が必要になる業務に使うなら、この待ち時間を運用に織り込んでおく必要があります。

ストアのアカウントを誰の名義で作るか

ここが最も見落とされていて、かつ後戻りが効きにくいところです。

アプリをストアに出すには、開発者として登録したアカウントが要ります。このアカウントを自社名義で作るか、開発会社の名義で作るかで、後の自由度がまるで変わります。

AppleのApple Developer Programへの登録のページには、はっきり書かれています。個人として登録した場合は「正式な個人名がApp Storeで販売元として表示されます」、組織として登録した場合は法人名が表示される、と。

つまり、開発会社の担当者が個人名義でアカウントを作ると、自社のアプリなのに販売元としてその人の名前が表示されます。ユーザーから見れば、誰が出しているアプリなのか分からない状態です。

組織として登録する場合の要件も書かれています。法人名とD‑U‑N‑S®番号の提示が必要で、「組織がAppleと契約を締結できる法人である必要があります。屋号、架空事業名、商号、支店名での登録は認められま(せん)」とあります。登録には2ファクタ認証を有効にしたアカウントも要ります。

D‑U‑N‑S番号は取得に時間がかかることがあるので、開発の終盤に慌てないよう、発注が決まった時点で自社側の準備を始めておくと安全です。

「そこまで自社でやるのか」と思われるかもしれません。ただ、アカウントの登録そのものは難しい作業ではなく、一度作れば以降は開発会社に作業してもらえます。手間がかかるのは最初の一度だけです。その一度を惜しんで相手名義にすると、数年後に効いてきます。

名義を自社にしておけば、開発会社をチームのメンバーとして招く形で作業してもらえます。売上が出るアプリなら受取口座も自社側に置けますし、開発会社を替えるときもアプリを移す必要がありません。逆に相手名義のままだと、乗り換えのときに移管の手続きが必要になり、相手の協力なしには動かせなくなります。

これは特定の会社が悪いという話ではなく、構造の問題です。同じ形は他の場面でも起きるので、仕組みとして理解しておきたい方はベンダーロックインが起きる原因と避け方を見てみてください。

審査で発注側が用意するもの

審査に必要なもののうち、開発会社が代わりに作れないものがあります。会社としての方針や窓口に関わるからです。

用意するもの 主な担当 いつまでに
プライバシーポリシー 発注側(法務や総務) 審査提出の2週間前
問い合わせ窓口とサポート用のページ 発注側 審査提出の2週間前
審査用のテストアカウント 発注側と開発会社で相談 審査提出まで
掲載する説明文とスクリーンショット 発注側が内容を決める 審査提出まで
開発者アカウントと年会費の支払い 発注側 開発の序盤

私の感覚では、ここで止まるプロジェクトが一番多いところです。開発は終わっているのにプライバシーポリシーが用意できていない、という状態が数週間続くことがあります。誰がいつまでに用意するかを、発注の時点で決めておいてください。

とくにプライバシーポリシーは、既存の会社サイトのものを流用できないことがあります。アプリで取得する情報(位置情報、端末の識別子、通知の許可など)が、会社サイトのポリシーに書かれていないからです。何を取得するのかは開発会社が把握しているので、項目を出してもらったうえで自社の法務に確認する、という順番になります。

OSの更新で毎年改修が要る

もうひとつ、システム開発との大きな違いが保守です。

iOSとAndroidには毎年メジャーな更新があります。そのたびに、画面の表示が崩れる、使えなくなる機能が出る、といったことが起きます。何もしていなくても、放っておくと動かなくなっていくのがアプリです。

だから保守を「壊れたら直す」という考え方で予算を組むと合いません。毎年、決まった時期に手を入れる前提の費用が要ります。あわせて、ストアの年会費も継続してかかります。Appleの年間メンバーシップは99ドルです。

この年間費用を見積もりに入れてもらってください。初期費用だけを見て発注すると、翌年から毎年出てくる金額が想定外の支出に見えてしまいます。

年間費用の目安を聞くときは、「去年はどれくらい対応が必要でしたか」と実績で聞くのが具体的です。見積もりの数字は幅を持たせて出てきますが、実際に手がけたアプリで前年どうだったかを聞けば、現実的な水準が見えてきます。あわせて、その年間費用に何が含まれて何が含まれないのかも確認しておくと、翌年の請求で揉めません。

アプリ開発の外注先を決める前に確かめること

2枚の見積書らしき紙を机に並べて、内訳を見比べている手元
見積もりは、公開後の費用が入っているかで読み分けます

3点が決まったら、依頼先を選ぶ段階です。会社の数を比べるより、公開後も付き合えるかを見るほうが実務では効きます。

見積もりに公開後の費用が入っているか

初期費用だけが並んだ見積もりは、公開までの分しか見ていないことがあります。安く見えるのは当然で、後から乗る分が書かれていないだけです。

確認するのは4つです。OS更新への対応が年間いくらか。ストアの年会費はどちらが払うのか。掲載している説明文やスクリーンショットを更新するときの費用。そして公開後に見つかった不具合を、どこまで無償で直してもらえるのか。

費用の相場そのものは別の話になるので、金額の妥当性を詰めたいときはアプリ開発費用の相場と見積もりの内訳のほうが近い内容です。この記事では、公開後の費目が抜けていないかだけを見ています。

あわせて見ておきたいのが、ソースコードの扱いです。納品物としてソースコードを受け取れるのか、受け取れる場合はどの形式で渡されるのか。ここが曖昧だと、開発会社を替えたくなったときに一から作り直すことになります。アカウントの名義と同じで、契約の時点なら一言で決まる話です。

見積書の前提条件や範囲の書かれ方を項目単位で点検したいときは、システム開発見積もりチェックシート(危険サインを見抜く60項目)が使えます。アプリでも、含まれない範囲の書かれ方を見る観点は同じです。

個人に頼むか会社に頼むか

アプリはフリーランスの個人にも頼めます。費用は会社より抑えられることが多いです。

判断が分かれるのは、公開後の継続性です。アプリは毎年手を入れる必要があるので、数年単位で連絡が取れるかどうかが効きます。個人の場合、体調や事情で対応できなくなる可能性は会社より高くなります。

個人に頼むこと自体が悪いわけではありません。頼むなら、ソースコードを自社が受け取る取り決めと、ストアのアカウントを自社名義にしておくことの2つを最初に決めておいてください。この2つがあれば、万一のときに別の相手へ引き継げます。

会社に頼む場合でも、担当者が1人しかいない体制なら実質は同じです。会社の規模より、そのアプリを見る人が何人いるかを聞いてみてください。「担当は1名ですが、社内で引き継げる体制があります」という答えが返ってくるかどうかで、継続性の実態が分かります。

内製か外注かの判断はシステムと同じ

ここまでアプリ特有の話をしてきましたが、そもそも外注すべきかどうかの判断軸は、システム開発のときと変わりません。

社内に作れる人がいるか、作ったあと誰が面倒を見るか、その業務が自社の競争力かどうか。この3つで考えます。詳しくはシステム開発を外注するメリット・デメリットと判断基準にまとめてあるので、外注するかどうかから迷っている場合はそちらが先です。

ひとつだけアプリで重みが変わるのが、2つ目の「誰が面倒を見るか」です。システムなら数年に一度の改修で済むことが多いのに対し、アプリは毎年手を入れます。内製にするなら、その人が毎年その時期に手を空けられるかまで考える必要があります。社内に1人だけ詳しい人がいる、という状態は、アプリではとくに危うい形になります。

逆に、外注する場合でも自社に窓口は要ります。審査の書類を用意するのも、掲載する説明文を決めるのも自社の仕事だからです。丸ごと任せられるわけではない、という前提で担当者を決めておいてください。

Q. ストアのアカウントは開発会社に作ってもらってもいいですか
A. 作業を代行してもらうのは構いませんが、名義は自社にしてください。Appleの登録要件では、登録した個人名または法人名がApp Storeで販売元として表示されます。開発会社の名義だと、自社のアプリなのに販売元が相手の名前で出ます。開発会社にはチームメンバーとして参加してもらう形が原則です。
Q. アプリは公開したらどれくらい費用がかかり続けますか
A. 大きく3つです。ストアの年会費(Appleの年間メンバーシップは99ドル)、OSの更新に合わせた改修費、そして不具合対応や掲載情報の更新にかかる費用です。金額は規模によりますが、何もしなければゼロで済むものではありません。発注の時点で年間いくらかかるのかを見積もりに入れてもらってください。
Q. 個人のフリーランスに頼んでも大丈夫ですか
A. 頼めます。ただしアプリは毎年手を入れる前提なので、数年先まで連絡が取れるかを考えておく必要があります。頼む場合は、ソースコードを自社が受け取ることと、ストアのアカウントを自社名義にすることの2つを契約時に決めてください。この2つがあれば、続けられなくなったときに別の相手へ引き継げます。