システム開発を発注するとき、複数の会社から見積もりを取るのが普通です。ただ、何社に声をかければいいのか、どう頼めば比べられる形で返ってくるのか、選ばなかった会社にどう連絡するのかは、あまり書かれていません。調べると出てくるのは見積もりの相場や内訳の話ばかりです。この記事では金額の読み方ではなく、相見積もりそのものの進め方に絞って整理します。
この記事のポイント
- 扱えるのは3社前後。多いほど良いわけではない
- RFPを完成させなくてもA4一枚の前提メモで足りる
- すでに1社に決まっているなら正直に伝える
- 選ばなかった会社にも必ず連絡する
目次
システム開発の相見積もりは何社に頼むか

最初に決めるのは社数です。ここを決めないまま声をかけ始めると、途中で収拾がつかなくなります。
3社前後が扱える上限
多く取れば良い見積もりに出会える、というものではありません。比べる側の時間が有限だからです。
5社から届くと、各社の前提の違いを追いきれなくなります。A社は移行作業を含み、B社は含まず、C社は「別途お見積り」と書いてある。この差を1つずつ確かめる作業が5社分になると、途中で力尽きて金額の欄だけを見てしまいます。それでは相見積もりを取った意味がありません。
逆に1社だけだと、その金額が高いのか安いのか判断できません。現実的なのは2社から3社です。3社なら、1社が極端な条件を出してきたときに「どちらが普通か」が見えます。
なお、社内規定で「3社以上」と決まっている会社もあります。その場合は規定に従いますが、読み切れないと感じたら、比べる項目を絞ってください。全項目を横並びにするより、範囲と体制と期間の3つだけを確実にそろえるほうが判断できます。
もうひとつ、社数を決めるときに考えたいのが自社の手間です。相見積もりは、見積書が届いてから終わるわけではありません。各社と打ち合わせをして、質問に答えて、追加の資料を出す作業がそれぞれに発生します。1社あたり2回ずつ打ち合わせるとして、3社なら6回です。ここに使える時間が自社にあるかを先に見積もっておくと、無理な社数にせずに済みます。
声をかける前に決めておくこと
同じ条件で出してもらわないと、比べる作業そのものが成立しません。とはいえ、提案依頼書を完成させてから声をかける必要はありません。
A4一枚で足ります。やりたいこと、対象になる業務や拠点の範囲、使う人の数、希望する時期、予算の枠。この5つが書いてあれば、各社は同じ土俵で考えられます。逆にこれが無いと、A社は小さく見積もり、B社はフルスペックで見積もり、金額が3倍違うのに両方が正しい、という状態になります。
前提をどこまでそろえるべきかは見積もりの読み方の話にもつながるので、金額の妥当性まで詰めたいときは受託開発の見積もりと人月単価の見方が参考になります。この記事では、そろえる中身より頼み方の段取りを扱います。
取ってはいけない場面もある
あまり言われないことですが、相見積もりを取らないほうがいい場面があります。
すでに発注先が決まっているのに、形式を整えるために他社にも声をかける場合です。見積もりを作るには、相手も時間を使います。規模によっては数日かかります。勝ち目のない案件にその時間を使わせるのは、業界での評判にも関わります。
とはいえ、社内の規定で複数社の見積もりが必要なこともあります。その場合は、そのまま正直に伝えてください。「本命が別にあるが、社内規定で複数社必要なので相見積もりをお願いしたい」と伝えれば、受けてくれる会社もありますし、辞退する会社もあります。どちらの反応も誠実です。黙って取って後から断るより、ずっと関係が保てます。
似た場面で、金額を下げさせるためだけに他社の見積もりを使うやり方もあります。A社の金額をB社に見せて、それより安くさせる。短期的には効きますが、削られるのは利益ではなく作業量です。テストの回数が減る、体制が薄くなる、といった形で戻ってきます。値引きを引き出したいなら、範囲を減らして「この範囲ならいくらか」と聞くほうが、あとで困りません。
予算を伝えるかどうか
予算の枠を伝えると、その金額いっぱいの見積もりが来るのではないか。よく聞かれる心配です。
結論としては、伝えたほうが比べやすくなります。枠を出さないと、各社が違う規模を想定して出してくるので、金額が並んでも比較になりません。枠を伝えたうえで「この範囲でどこまでできますか」と聞けば、同じ土俵の提案が返ってきます。
枠をいくらに置くかがまだ決まっていない場合は、金額を人月に割り算して「何人が何か月動けるか」に置き換えてみると見当がつきます。2,000万円なら、1人月100万円として20人月、4人で5か月前後という規模感です。これはあくまで一般的な目安なので、実際の判断は個別の見積もりで確認してください。
システム開発の相見積もりの頼み方と断り方

社数と前提が決まったら、実際の依頼です。ここからは段取りの話になります。
依頼のときに渡すものと聞くこと
渡すものと、返してほしいものをセットで伝えます。どちらかが欠けると、届いた見積もりが比べられない形になります。
| 項目 | 内容 | 理由 |
|---|---|---|
| 渡すもの | A4一枚の前提メモ | 同じ条件で考えてもらうため |
| 渡すもの | 今使っている帳票やExcelの実物 | 業務の実態が言葉より正確に伝わる |
| 聞くこと | 工程ごとの人月 | 一式表記だと比べられない |
| 聞くこと | 担当する人の役割と参加期間 | 体制の厚みが分かる |
| 聞くこと | 含まれない範囲 | 後から追加費用になる箇所が見える |
資料はきれいに整え直さなくて構いません。今の帳票をそのまま見せるほうが、業務の実態が伝わります。手書きの欄が多い、同じ数字を3か所に書いている、といった現状が見えるからです。
聞くことのうち、意外と効くのが「含まれない範囲」です。見積書は入っているものを書く形式なので、入っていないものは書かれません。データ移行、操作説明、稼働後の初期対応。このあたりが含まれているかどうかで総額が大きく変わるのに、書かれていなければ気づけません。「この見積もりに含まれないものを教えてください」と一言聞くだけで、各社の差がはっきりします。
回答期限は2週間を目安に
期限を切らないと、いつまでも揃いません。かといって短すぎると、概算しか出てきません。
2週間前後が目安です。あくまで一般的な目安で、規模によって変わるので、大きな案件なら相談してください。短い期限で無理に出してもらった見積もりは、あとで「前提が違った」となりやすいところです。
あわせて、いつ選定結果を返すかも最初に伝えます。「◯月◯日までに見積もりをいただき、◯月◯日までにご連絡します」と決めておくと、相手も社内の予定を立てられます。返事の時期を言わないまま待たせるのが、いちばん印象が悪くなります。
期限を伝えるときは、社内の決裁がいつあるかも合わせて考えてください。見積もりが揃っても、比べて決裁を通すまでに2週間から1か月かかることがあります。ここを見ていないと、各社に「もう少しお待ちください」を繰り返すことになります。稼働させたい時期から逆算して、決裁の日程まで含めた予定を先に引いておくと、依頼のときに自信を持って期限を言えます。
届いた見積もりを項目単位で横に並べたいときは、ベンダー選定比較表テンプレート(10カテゴリ100項目)のような枠があると、見る項目がぶれずに済みます。
届いた見積もりの並べ方
見積書が揃ったら、金額の欄から見ないでください。ここを我慢できるかで、判断の質が変わります。
先に見るのは4つです。対象範囲、前提条件、体制、期間。この4つがそろって初めて、金額が比較できる数字になります。範囲が違う見積もりの金額を並べるのは、大きさの違う箱の値段を比べるようなものです。
そろえてみると、実は一番安い会社が一番狭い範囲しか見ていなかった、ということがよくあります。逆に高く見えた会社が移行や教育まで含んでいて、総額では変わらないこともあります。
並べ方としては、社ごとに縦に読むのではなく、項目ごとに横に読みます。まず対象範囲だけを3社分並べて見る。次に体制だけを3社分見る。こうすると、どこが各社で食い違っているのかが浮かび上がります。1社ずつ最初から最後まで読むと、読み終わるころには最初の会社の内容を忘れています。
比べた結果をどう採点して記録に残すかは、ベンダー選定の評価基準と比較表の作り方にまとめてあります。社内で説明する必要があるときは、その形にしておくと後が楽です。
選ばなかった会社への断り方
ここが抜けやすいところです。決まった会社には連絡するのに、選ばなかった会社には何も言わない。よくあることですが、もったいない対応だと思います。
その会社に次の案件で頼むかもしれませんし、今回の会社がうまくいかなかったときの次の候補でもあります。何より、時間を使って提案してくれた相手です。
伝えるのは3つで足ります。今回は別の会社に決めたこと、簡単な理由、提案への礼。理由は詳しく書かなくて構いませんが、「今回は見送りました」だけだと次に声をかけにくくなります。
連絡の手段はメールで構いません。長文である必要もありません。ただ、担当者が何度も足を運んでくれた場合は、電話を一本入れるかどうかで印象が変わります。社内で稟議に時間がかかっている間も、途中経過を一度伝えておくと相手は待ちやすくなります。
金額が理由なら、そう伝えて問題ありません。むしろ「範囲は御社の提案が一番合っていたが、今回は予算の都合で」と伝えれば、相手も次の機会に調整の余地を考えられます。範囲や体制が理由なら、それも伝えたほうが親切です。相手にとっては次の提案の材料になります。
なお、断る前提で見積書の中身を細かく聞き出すのは避けてください。見積書は相手の工数の見立てそのもので、それだけでも価値のある情報です。判断に必要な範囲を超えて聞くのは、フェアではありません。見積書のどこまでを確認すべきかはシステム開発の見積もりの見方で整理しています。
- Q. 相見積もりは何社くらいが一般的ですか
- A. 2社から3社が現実的です。1社だと金額の妥当性が判断できず、5社を超えると各社の前提の違いを追いきれなくなって、結局は金額だけで見ることになります。社内規定で社数が決まっている場合は従いつつ、比べる項目を範囲・体制・期間の3つに絞ると読み切れます。あくまで一般的な目安なので、案件の大きさによって調整してください。
- Q. 相見積もりであることは相手に伝えるべきですか
- A. 伝えたほうがいいと考えています。隠していても、条件の聞かれ方でだいたい分かります。伝えたうえで、何社に声をかけているか、いつまでに決めるかを言えば、相手も本気度に応じた対応ができます。すでに本命が決まっていて社内規定のために取る場合も、正直に伝えてください。黙って取って後から断るより、関係が保てます。
- Q. 断るときに金額が理由だと伝えてもいいですか
- A. 問題ありません。むしろ伝えたほうが相手にとって有益です。「範囲は御社の提案が合っていたが、予算の都合で」と言えば、次の機会に調整の余地を検討してもらえます。避けたいのは、他社の見積額をそのまま伝えて値下げを求めることです。相手の見積もりは相手の工数の見立てなので、それを材料に競わせるのは筋が良くありません。
