AIを作らせると何か月かかるのか。経営会議で「いつ動くのか」を聞かれて、開発会社の説明が「まず検証で2か月、その後はご相談」だったために答えられなかった、という相談をよく受けます。調べても数字がそろわないのも困りものです。ある記事は2〜4か月と書き、別の記事は6〜12か月と書いています。倍以上ちがうので、どちらを信じればいいのか分かりません。この食い違いには理由があります。同じ「AI開発」という言葉で、既製ツールを入れる話と、自社のデータを使ってゼロから作る話が混ざって語られているからです。この記事ではまずその2つを分け、そのうえで段階ごとの期間の目安と、予定が延びる理由を発注側の目線で並べます。
この記事のポイント
- 既製ツールの導入なら2〜4か月、自社データで作る開発なら6〜12か月が一般的な目安
- 同じ言葉で数字が倍以上ちがうのは、この2つが混ざって語られているから
- データが揃っていないと着手できず、その整備は期間の前に乗る
- 検証の終わりは日付では決められないので、合格ラインで区切って判断する
目次
AI開発の期間は段階ごとに分けて見る
既製ツールの導入か自社開発かを分ける
まず、受け取った見積もりがどちらの話なのかを確認してください。ここを分けないまま期間を比べても意味がありません。
既製ツールの導入は、すでにあるサービスを自社の業務に合わせて設定し、現場に使ってもらうまでの話です。作る工程がないので、時間がかかるのは対象業務を決めることと、権限や運用ルールを整えること、そして現場に慣れてもらうことです。
自社データで作る開発は違います。自社の伝票や履歴を使って、自社の判断に合うように学習させます。ここには、データを使える形に整える作業と、精度が目標に届くまで試す作業が入ります。この2つが期間の大半を占めます。
なお、この2つは排他ではありません。既製ツールを入れたうえで、自社の判断が必要な一部だけを作る、という組み合わせが実際には多いです。その場合、期間はツール導入の側に自社開発の一部が乗る形になるので、両方のレンジを足したうえで重なる部分を引いて考えます。
開発会社の提案書だけでは、どちらなのか読み取れないことがあります。私が確認しているのは「学習に使うデータはどこから持ってきますか」という質問です。既製ツールなら提供元のモデルをそのまま使うので、この質問に対して「特に必要ありません」という答えが返ります。自社データを使うなら、必ずデータの話が返ってきます。
段階ごとの期間の目安
それぞれの段階でどれくらいかかるかを並べると、全体像がつかみやすくなります。
| 段階 | 既製ツールの導入 | 自社データで作る開発 |
|---|---|---|
| 対象業務の絞り込み | 1〜2週間 | 2〜4週間 |
| 要件の整理 | 1〜2週間 | 1〜2か月 |
| データの整備 | ほぼ不要 | 1〜3か月(揃っていなければさらに延びる) |
| 検証 | 2〜6週間 | 1〜3か月 |
| 本開発 | 設定で済むことが多い | 3〜6か月 |
| 展開と教育 | 1〜2か月 | 1〜2か月 |
| 合計の目安 | 2〜4か月 | 6〜12か月 |
いずれも一般的な目安です。対象業務の複雑さ、データの状態、社内の意思決定の速さで大きく動くので、実際の判断は個別の見積もりで確認してください。
この表の使い方は、金額の相場表と同じです。開発会社から出てきた予定表がこのレンジから大きく外れているとき、「どの段階を短く見ているのか」を聞く足がかりになります。短い場合はデータ整備を自社側の作業として外に出しているか、検証を省いている可能性があります。
データ整備は着手前に乗る
ここが、期間を語る記事の多くで抜けている部分です。私が読んだ上位の解説記事も、フェーズごとの週数は細かく書いているのに、データの準備については具体的な記載がありませんでした。
自社データで作る場合、データが使える状態になっていなければ、そもそも着手できません。そして「使える状態」のハードルは、思っているより高いです。よくあるのは次のような状態です。
- 同じ項目が部署ごとに違う形式で入力されている
- 紙とデータが混在していて、紙の分は電子化から始める必要がある
- 過去分が残っていない、または直近1年分しかない
- 正解のラベルが付いていない(どれが正しい処理だったかの記録がない)
この4つのうち、どれに当てはまるかは自分で調べられます。対象の業務で使っている台帳やシステムから、直近1か月分をそのまま出してみてください。列がそろっているか、空欄がどれくらいあるか、同じ意味の値が違う書き方になっていないかを見れば、だいたいの状態が分かります。この作業は半日で終わりますし、開発会社との初回の打ち合わせがまるごと変わります。
正解のラベルについては補足が必要です。たとえば伝票の読み取りを自動化したい場合、「この伝票をどう処理したのが正しかったか」の記録がないと、精度を測る基準が作れません。記録が残っていなければ、現場の担当者に何百件か手作業で付けてもらうところから始まります。ここは外注できない部分で、そのまま期間になります。
この整備は、開発会社に頼むこともできますが、中身を知っているのは自社の現場です。結局、自社側の作業として残ることが多く、しかも工程表には載りません。ですから予定を立てるときは、開発会社が示した期間の「前」に、自社の整備期間を足して考えてください。
システム開発の期間との違い
通常のシステム開発なら、仕様が決まった時点で期間が引けます。画面が20あって、帳票が5本あるなら、必要な工数はおおよそ計算できます。だから工程表を日付で組めます。
AIは違います。作る量は決まっても、精度が目標に届くかどうかは試してみないと分かりません。届かなければ、データを増やすか、条件を変えるか、目標を下げるかの判断になります。この試行が何回で終わるかは、着手前には決められません。
つまり、AI開発の期間には「引ける区間」と「引けない区間」が混ざっています。引ける区間は通常のシステム開発と同じように見積もれるので、規模別の目安が使えます。工程ごとの時間配分の考え方はシステム開発の期間を規模別に整理した記事にまとめてあります。引けない区間の扱いが、この記事の後半の話です。
AI開発の期間が読めなくなる理由
精度が届くまでの試行回数は読めない
検証の期間が「3〜6週間」のように幅で書かれているのを見たことがあるはずです。あの幅は、開発会社が手を抜いているのではなく、試行回数が読めないことの正直な表現です。
1回目で目標の精度に届くこともありますし、5回試しても届かないこともあります。データの質と、そもそもの目標設定によって変わります。ですから検証の終わりを日付で決めるのは、実務的に無理があります。
もう少し具体的に書きます。伝票の読み取りで「正しく読める率95%」を目標にしたとします。1回目の検証で88%だったとき、選択肢は3つです。データを増やして学習し直す、読み取りにくい様式を対象から外す、目標を90%に下げて残りを人が直す運用にする。どれを選ぶかで、追加でかかる期間は2週間から2か月まで変わります。そしてこの判断は、結果を見てからしかできません。
代わりに使うのが合格ラインです。「この条件でこの精度に届いたら次へ進む」「届かなければいったん止める」を先に決めておけば、期間が振れても判断ができます。合格ラインをどう決めるかはAI導入の進め方を5ステップで整理した記事で扱っているので、そちらを見てください。ここで押さえたいのは、期間の話としては「日付ではなく条件で区切る」という点だけです。
検証で止まれば本開発はゼロになる
もうひとつ、工程表の前提を崩す話があります。検証と本開発を、つながった予定として並べてしまうことです。
検証は本来、進むか止まるかを決めるための工程です。ということは、止まる可能性が最初から織り込まれています。それなのに「検証2か月、本開発6か月、合計8か月」という予定表を社内に出してしまうと、止めるという選択が取りづらくなります。すでに8か月の計画として承認されているからです。
私は、社内向けの予定は検証までで区切ることを勧めています。「まず3か月かけて、この条件に届くかを確かめる。届いたら、そこから本開発の予定と金額を出す」という形です。年度内に間に合うかどうかの判断も、この置き方なら「検証の結果が出る日」を基準にできます。
提示された期間が短すぎるサイン
予定表を受け取ったときに、短すぎないかを見る目安があります。次のどれかに当てはまるなら、抜けている作業がある可能性が高いです。
- データの整備に関する期間がどこにも書かれていない
- 検証の合格ラインが書かれておらず、期間だけが入っている
- 自社側の作業(データの提供、現場での確認、判断の回答)が工程表に載っていない
- 本番稼働の日で予定表が終わっていて、その後の調整期間がない
2つ目も要注意です。合格ラインが書かれていない検証は、「やってみて結果を報告する」だけの工程になりがちです。そうなると結果が出たあとに「これは合格なのか」を社内で議論することになり、判断に1か月かかることも珍しくありません。期間の話に見えて、実は意思決定の設計の問題です。
4つ目は見落とされがちです。AIは動かし始めてからも、想定外の入力に対して調整が必要になります。稼働日をゴールにした予定を組むと、その調整が誰の担当なのか決まっていない状態で運用が始まります。
発注側が先に用意すると短くなるもの
逆に、こちらが先に用意しておくと期間が縮むものがあります。相談に行く前に手元にあるだけで、要件の整理が早く終わります。
用意しておきたいのは、対象になるデータがどこにあるか、どんな形式か、何件くらいあるか、過去何年分残っているか、の4点です。あわせて、社外に出せない情報の線引きと、現場で確認を担当する人を決めておくと、往復が減ります。
自社の準備がどこまで整っているかを点検するなら、AI導入準備度チェックリスト(6領域50項目)でデータや運用の抜けを先に洗い出せます。期間の見積もりを取る前に埋めておくと、開発会社からの質問に即答できるようになります。
費用の側からも同じことが言えます。準備が足りないと、見積もりに「前提条件」として自社側の宿題が並び、そこが崩れると金額も期間も動きます。金額の内訳の見方はAI開発の費用相場と内訳を整理した記事にまとめています。
- Q. 最短どれくらいで動きますか?
- A. 既製ツールを1業務だけに入れて試すなら、1〜1.5か月で動かせることがあります。ただしそれは検証までの期間で、全社で使える状態にするには展開と教育でさらに1〜2か月かかります。自社データで作る場合は、データが整っていても検証までで3か月前後を見てください。
- Q. 期間を半分にできますか?
- A. 対象業務を1つに絞る、既存の様式をそのまま使う、目標精度を下げて残りを人が直す運用にする、のいずれかで短くなります。逆に人を増やして短縮するのは、この分野ではあまり効きません。待ち時間の多くは検証の結果待ちと社内の判断待ちで、人数では縮まないためです。
- Q. 開発会社から期間を明示されないのは不誠実ですか?
- A. 検証の部分について幅で答えるのは、むしろ正直な回答です。問題なのは、幅の理由と、次に進む条件が説明されないことです。「どうなったら次へ進みますか」と聞いて具体的に答えられるかで判断してください。
