AIを入れたいと開発会社に相談したら「補助金が使えるかもしれません」と言われた。ただ、自社が頼もうとしている開発が本当に対象になるのかは分からない。そんな状態でこの記事にたどり着いた方が多いと思います。制度の説明は公式サイトにありますが、知りたいのはそこではなく「うちのこの発注、対象になるの?」という一点ですよね。

先に大事なところを書きます。この補助金の対象は、事務局に事前登録されたITツールに限られます。つまり、自社専用にゼロから作ってもらうオーダーメイドのAI開発費を、この制度で賄うのは原則として難しいということです。この記事では、AI導入補助金の枠と補助率を押さえたうえで、対象になる発注とならない発注の見分け方、開発会社と組んで申請を進める手順、そしてスケジュールが発注を縛る点までを、発注する側の目線で解説します。なお制度の数字や日程は変わりますので、金額や締切は必ず公式サイトで確認してください。

この記事のポイント

  1. 補助対象は事務局に事前登録されたITツールに限られ、ゼロから作る開発費は原則対象外
  2. 登録済みツールの導入費と、設定や研修などの役務は対象になりうる
  3. まず確認するのは補助金の条件ではなく、自社の要望が既製ツールで足りるかどうか
  4. 事業の実施期間内に導入から支払い、報告まで終える必要があり発注時期が縛られる
目次
  1. AI導入補助金で対象になる発注とならない発注
  2. 旧IT導入補助金からの名称変更と全体像
  3. 申請枠と補助率の目安
  4. 登録済みツールが前提という最大の制約
  5. 自社の発注が対象か見分ける手順
  6. AI導入補助金の申請を発注者が進める手順
  7. 支援事業者と組む申請の流れ
  8. 開発会社に確認する4つのこと
  9. スケジュールが発注を縛る点
  10. 補助金ありきで要件を歪めない
  11. 総括:AI導入補助金を使うかの判断軸

AI導入補助金で対象になる発注とならない発注

AI導入補助金の対象になるか資料を確認している担当者
対象かどうかは金額ではなく「登録済みツールかどうか」で決まる

この章では、制度の全体像を最短で押さえたうえで、自社の発注が対象に入るかを判断できるところまで進みます。細かい要件は公募要領に譲り、発注の可否に効く部分だけを扱います。

先に結論の骨格だけ言うと、判断の分かれ目は金額でも業種でもなく、「導入しようとしているものが、事務局に登録されたITツールかどうか」です。ここが分かると、話がかなり整理されます。

旧IT導入補助金からの名称変更と全体像

この制度は、以前はIT導入補助金と呼ばれていたものです。令和7年度補正予算の事業から「デジタル化・AI導入補助金」に名称が変わりました。検索で「AI導入補助金」と出てくるものの多くは、この制度を指しています。

目的は、中小企業や小規模事業者の労働生産性を上げるために、AIを含むITツールの導入を支援することです。AIという言葉が名称に入ったことで「AI開発の費用が出る制度になった」と受け取られがちですが、仕組み自体は従来のIT導入補助金を引き継いでいます。ここが最初の誤解ポイントです。

制度は、補助を受けたい事業者が、IT導入支援事業者として登録された会社と組んで申請する形になっています。発注者が単独で「この開発に補助金をください」と申請するものではない、という点も押さえておいてください。

申請枠と補助率の目安

申請枠は5つに分かれています。本記事の執筆時点(2026年8月)で公開されている枠と、補助率のおおまかな目安は次のとおりです。

主な用途 補助率の目安
通常枠 幅広いITツールの導入 1/2以内(賃上げ要件で引上げの余地)
インボイス枠(インボイス対応類型) 会計・受発注・決済ソフト 3/4以内(小規模事業者は4/5以内)
インボイス枠(電子取引類型) 受発注のデジタル化 枠の区分により変動
セキュリティ対策推進枠 サイバー対策の強化 枠の区分により変動
複数者連携デジタル化・AI導入枠 地域や取引先と連携した導入 枠の区分により変動

補助率は全体として1/2から4/5の範囲、補助上限は最大で450万円とされています。通常枠は補助額5万円以上150万円未満と150万円以上450万円以下で区分が分かれ、いずれも補助率は1/2以内が基本です。あくまで執筆時点の一般的な目安であり、実際の判断はデジタル化・AI導入補助金の公式サイトと公募要領で必ず確認してください。

なお、ハードウェアが対象になるのはインボイス枠のインボイス対応類型に限られます。パソコンやタブレットの購入費が広く出る制度ではない点も、誤解されやすいところです。

登録済みツールが前提という最大の制約

ここが本記事でいちばんお伝えしたい部分です。補助の対象になるのは、事務局に事前登録され、補助金のサイトに公開されているITツールに限られます。登録されていないものは、どれだけ良いものでも対象になりません。

この仕組みを発注の言葉に置き換えると、こうなります。自社の業務に合わせて一から設計・開発してもらうオーダーメイドのAI、いわゆるスクラッチ開発の費用は、そのままでは補助の対象になりません。開発会社が作る前の段階では、そもそも登録するツールが存在しないからです。

開発会社の担当者に補助金の対象範囲を質問している発注担当者
「補助金が使える」と言われたら、何が対象で何が対象外かを分けて確認する

一方で、対象になりうるものもあります。登録済みのITツールそのものの導入費用に加えて、ツールのカテゴリには役務も含まれています。導入時の設定作業や、社員向けの操作研修といった部分です。つまり「既にあるツールを自社に合わせて入れてもらう費用」は対象に入る余地がありますが、「無いものを作ってもらう費用」は入らない、と整理すると分かりやすいと思います。

ですから、この補助金を軸にAI導入を考えるなら、発注の形そのものが変わります。作る前提から、既製のツールを選んで入れる前提へ、という切り替えです。

自社の発注が対象か見分ける手順

判断は次の順番で進めると迷いません。

対象かどうかを見分ける手順

  • 自社がやりたいことを、業務と作業のレベルで書き出す
  • それが既製のITツールで足りるのか、独自の作り込みが要るのかを分ける
  • 足りる場合、候補のツールが補助金サイトに登録されているかを確認する
  • 登録されている場合、どのIT導入支援事業者と組めるかを確認する
  • 作り込みが要る場合、その部分は補助の対象外として別に予算を見る

注目してほしいのは、最初の2つが補助金の話ではないことです。自社の要望が既製ツールで足りるかどうかは、要件の問題です。ここが決まっていないと、補助金の対象判定にも入れません。要望の整理の仕方はAI導入の進め方と発注前に決める5ステップにまとめています。

また、作り込みが必要だと分かった場合でも、悲観する必要はありません。補助金を使わない前提での費用感を先に把握しておけば、投資判断はできます。規模別の目安はAI開発の費用相場と規模別の目安を参考にしてください。ほかの制度も含めて検討したい場合はシステム開発で使える補助金の種類で全体像を確認できます。

AI導入補助金の申請を発注者が進める手順

AI導入補助金の申請スケジュールをカレンダーで確認する担当者
申請は開発会社と二人三脚で進み、事業期間が発注時期を縛る

対象になりそうだと分かったら、次は進め方です。この補助金は発注者が単独で完結できる仕組みではないため、開発会社との役割分担を理解しておく必要があります。

あわせて、スケジュールの制約が想像以上に発注を縛ります。ここを知らずに進めると、補助金を使うために急いだり、逆に間に合わずに見送りになったりします。

支援事業者と組む申請の流れ

大まかな流れは、IT導入支援事業者を決める、導入するツールを決める、必要なアカウントや事業者情報を用意する、交付申請を出す、交付決定を待つ、決定後に契約と導入を進める、支払いを済ませて実績報告を出す、という順序です。

注意点は、交付決定の前に契約や発注をしてしまうと補助の対象にならないのが補助金の一般的な考え方だという点です。「先に発注して、あとから申請」は通りません。開発会社が急いで契約を求めてきた場合は、交付決定との前後関係を必ず確認してください。

実務としては、申請の手続き自体はIT導入支援事業者が主導することが多くなります。ただし申請者はあくまで自社です。書類の中身を読まずに任せきりにすると、記載内容と実態がずれたまま提出されることがあります。提出前に自社で内容を確認する時間を、スケジュールに入れておきましょう。

開発会社に確認する4つのこと

「補助金が使えます」と言われたときに確認したいのは、次の4点です。曖昧な答えしか返ってこない場合は、いったん止めて別の会社にも聞いてみてください。

開発会社に確認する4つのこと

  • 御社はIT導入支援事業者として登録されていますか
  • 提案いただくツールは登録済みですか。登録名で確認させてください
  • 見積もりのうち、補助対象になる部分と対象外の部分はいくらずつですか
  • 交付決定が下りなかった場合、この契約はどうなりますか

3つ目が特に重要です。提案の中に登録外の作業が混ざっていると、その分は全額自社負担になります。総額に補助率を掛けて考えていると、実際の自己負担額が想定より大きくなります。

4つ目も忘れないでください。補助金は申請すれば必ず通るものではありません。不採択だった場合に契約が自動で解除されるのか、そのまま自費で進めるのかを、契約前に決めておく必要があります。

スケジュールが発注を縛る点

この制度には事業の実施期間が定められており、その期間内に導入から支払い、実績報告までを終える必要があります。本記事の執筆時点では、交付申請の受付は2026年3月30日に始まり、締切は通年で複数回設定されています。事業の実施期間と実績報告の期限は2027年3月31日とされています。

締切の回次と日付は変更や追加があるため、本記事では具体的な日付を書きません。公式サイトの事業スケジュールで最新の情報を確認してください。

発注者として押さえるべきは、逆算の考え方です。実績報告の期限から、支払い、検収、導入作業、契約、交付決定、申請、そして社内の稟議までを逆に並べると、いつまでに何を決めなければならないかが見えます。特に社内の決裁に時間がかかる会社では、この逆算をしておかないと、間に合わないことに後から気づくことになります。

補助金ありきで要件を歪めない

最後に、私が現場で一番よく見る失敗を書いておきます。補助金に合わせて、要らない機能を足してしまうことです。

補助率が1/2だとしても、自己負担は残ります。使わない機能に100万円かけて50万円戻ってくるより、必要な機能に50万円かけるほうが安いのは当たり前ですが、補助金の話が絡むと不思議とこの判断が鈍ります。「せっかくだから枠いっぱいまで」と考え始めたら、いったん立ち止まってください。

同じ理由で、補助金が使えるからという理由だけで、自社に合わないツールを選ぶのも避けたいところです。判断の順番は、業務課題、必要な機能、候補ツール、そして最後に補助金です。この順番を守れているかを自分で確かめたい方は、目的やデータ、運用体制まで含めて自社の準備度を点検できるAI導入準備度チェックリスト(6領域50項目)が使えます。

Q. 生成AIのツール利用料は対象になりますか?
A. そのツールが事務局に登録されていれば対象になりうる、というのが原則の考え方です。登録の有無は補助金サイトの登録ツール一覧で確認できます。有名なサービスであっても登録されていなければ対象外になりますので、名前ではなく登録の事実で判断してください。
Q. 個人事業主でも申請できますか?
A. 制度は中小企業・小規模事業者等を対象としており、個人事業主が含まれる場合があります。ただし業種や従業員規模などの要件が定められているため、自社が対象に該当するかは公募要領で確認してください。
Q. いくらもらえるのか、先に知る方法はありますか?
A. 補助額は、対象経費に枠ごとの補助率を掛けて算出します。まず見積もりのうち補助対象になる金額を確定させないと計算できないため、開発会社に対象と対象外を分けた見積もりを出してもらうのが先です。総額に補助率を掛けた概算だけで判断しないようにしてください。
Q. 申請の代行だけを頼むことはできますか?
A. この制度はIT導入支援事業者と組んで導入まで進める仕組みなので、申請書類だけを切り離して考えるのは実態に合いません。手続きの支援を受けること自体は一般的ですが、その費用や役割分担は事前に明確にしておきましょう。