「UXデザインとは何ですか」と聞かれて、開発を発注する立場で正しく説明できるでしょうか。UI(見た目)との違いが曖昧なまま「いい感じのデザインで作ってください」とベンダーへ依頼すると、見た目はきれいなのに使われないシステムができあがる、ということは珍しくありません。
UXデザインとは、ユーザーが製品やサービスから受け取る体験全体を設計する取り組みです。この記事では、UXデザインの意味とUI・CXとの違い、重要性、UXハニカムと呼ばれる7原則、そして共感から検証までの設計プロセスを、システム開発を依頼する発注者の目線でわかりやすく整理します。読み終えるころには、自社のUXをどう改善し、何を要件としてベンダーへ伝えればよいかの判断軸が持てるはずです。
この記事のポイント
- UXデザインとはユーザーが製品やサービスで得る体験全体を設計することで、見た目を整えるUIデザインより広い概念
- UIはUXの一部、CXはUXを包む概念で、3つは「接点・体験・顧客全体」という入れ子の関係で整理できる
- 優れたUXはUXハニカムの7原則(有用・使いやすさ・探しやすさ・信頼・利用しやすさ・好ましさ・価値)で点検できる
- UXデザインは共感・定義・発想・試作・検証の5段階で進め、発注前に要件へ落とし込むほど開発の手戻りが減る
目次
UXデザインとは?UIとの違いと7原則
UXデザインの意味と「UX設計」という考え方
UXとはUser eXperience(ユーザーエクスペリエンス)の略で、ユーザーが特定の製品やサービスを利用したときに得られるすべての体験を指します。UXデザインとは、その体験をより良いものにするために設計することです。日本語では「ユーザー体験設計」「UX設計」とも呼ばれ、どれもほぼ同じ意味で使われています。
たとえばECサイトなら、欲しい商品を探しやすい、ページの表示が速い、決済までの手順が短い、購入後のサポートが丁寧、といった一連の感じ方がすべてUXに含まれます。「ボタンの色」や「フォントの美しさ」のような表面的な部分だけでなく、ユーザーが目的を達成するまでの流れ全体を扱うのがUXデザインだと考えると分かりやすいでしょう。
私が発注の相談を受けるときに最初にお伝えするのは、「UXは画面の中だけの話ではない」ということです。問い合わせの返信スピードや、解約のしやすさまでがUXに含まれます。だからこそ、UX設計はデザイナーだけの仕事ではなく、発注側が「どんな体験を提供したいか」を言葉にするところから始まります。
UXデザインが重要とされる理由
UXは、製品やサービスがユーザーに提供できる価値そのものです。UXを改善すると、主に次のような効果が期待できます。
- 満足度とロイヤルティの向上:使いやすく価値を感じてもらえると、繰り返し利用してもらいやすくなる
- 売上・利益への貢献:満足度の高さはリピートや口コミにつながり、結果として収益を押し上げる
- 離脱率の低下:迷いやストレスが少ない体験は、途中離脱や解約を減らす
逆に言えば、UXが悪いと「機能はあるのに使われない」状態に陥ります。せっかく費用をかけてシステムを作っても、現場が使ってくれなければ投資は回収できません。UXデザインの重要性は、見栄えの問題ではなく、投資した開発費を成果に変えられるかどうかに直結している点にあります。私の感覚では、発注後のトラブルの多くは「作る前にUXの目線で要件を詰めきれていなかった」ことに原因があります。
UXデザインとUI・CXの違い
UXデザインを理解するうえで混同しやすいのが、UIデザインとCXです。まずUIとはUser Interface(ユーザーインターフェース)の略で、ユーザーと製品をつなぐ接点、つまりボタン・文字・レイアウト・配色などの視覚的な要素を指します。UIデザインはこの接点を視覚的に設計する仕事です。
一方でUXは、そのUIを含めた体験全体を指します。UIがUXの一部であり、優れたUIは優れたUXを支えますが、UIだけ整っていてもUXが良いとは限りません。たとえば見た目が美しくても、購入までの手順が多すぎればUXは悪化します。
CXはCustomer eXperience(顧客体験)の略で、購入前の認知から購入・利用・アフターフォローまで、顧客が企業と関わるすべての体験を指します。感情や心理まで含めて顧客全体を捉える概念で、UXはそのCXの一部に位置づけられます。整理すると、UI(接点)⊂ UX(製品・サービスの利用体験)⊂ CX(顧客との関わり全体)という入れ子の関係になります。近年は境界が曖昧になり混同されることもありますが、発注時には「どの範囲を設計したいのか」を意識すると、依頼内容がぶれにくくなります。
身近なUXデザインの成功事例
UXデザインがうまくいっている例は、私たちが日常的に使うサービスの中にあります。代表的なものを整理しました。
| サービス | 体験を支える工夫 | ユーザーが感じる価値 |
|---|---|---|
| Starbucks | 居心地の良い空間、豊富なカスタマイズ、アプリでの事前注文 | 自分のための特別な時間として過ごせる |
| Spotify | 好みを分析したおすすめ、使いやすい再生画面、豊富な楽曲 | 探さなくても好きな音楽に出会える |
| Netflix | 視聴履歴からのレコメンド、どの端末でも続きから見られる仕組み | 迷わず次に見たい作品にたどり着ける |
| Slack | シンプルな操作、検索しやすいメッセージ管理、丁寧なオンボーディング | 初めてでも迷わずチームで使い始められる |
いずれも共通しているのは、ユーザーのニーズを深く理解したうえで、目的をスムーズに達成できる流れを用意している点です。派手な機能を増やすのではなく、必要な体験を磨き込んでいることが、優れたUXデザインの条件だと分かります。
UXデザインを支える7原則:役に立つ・使いやすい・探しやすい
優れたUXデザインには、デザイナーのピーター・モービル氏が提唱した「UXハニカム」という7原則があります。自社の製品やサービスのUXを点検するときの観点として役立つので、ECサイトを例に紹介します。出典として原文を確認したい場合は、Peter Morville氏によるUser Experience Honeycombの解説を参照してください。
前半の3つは、体験の土台となる基本機能にあたります。Useful(役に立つ)は、ユーザーにとって本当に必要な情報や機能を提供できているかという原則です。ECサイトなら、商品の詳細情報やレビュー、よくある質問の整備が該当します。
Usable(使いやすい)は、初めてのユーザーでも迷わず操作できるかという原則です。読みやすいフォント、押しやすいボタン、数ステップで完了する購入手順などが当てはまります。Findable(探しやすい)は、目的の情報や機能をすぐに見つけられるかという原則で、検索やカテゴリー、絞り込みフィルターの使いやすさが該当します。この3つが欠けると、ユーザーは目的を達成する前に離脱してしまいます。
7原則の後半:信頼・利用しやすさ・好ましさ・価値
後半の4つは、体験の質と満足度を高める要素です。Credible(信頼できる)は、安心して使えるかという原則で、情報源の明記、問い合わせ窓口、セキュリティ対策などが関わります。Accessible(利用しやすい)は、年齢や障がいの有無にかかわらず誰もが使えるかという原則で、文字サイズの変更や音声読み上げへの対応が代表例です。
Desirable(好ましい)は、魅力的で使いたいと思えるかという原則で、ブランドイメージが伝わるデザインや心地よい配色が該当します。そしてValuable(価値がある)は、前の6要素が満たされた結果として生まれる、ユーザーにとっての本質的な価値です。時間の節約、コスト削減、生活の改善といった成果につながって初めて、UXは価値あるものになります。7原則は順番に積み上げる項目というより、自社のUXに不足している観点を見つけるためのチェックリストとして使うのがおすすめです。
UXデザインの設計プロセスと改善の進め方
UXデザインを実際に設計するときは、デザイン思考に基づく5段階のプロセスで進めると整理しやすくなります。ここでは各段階で何をするのか、発注者として何を準備しておくべきかも合わせて説明します。
共感:ユーザーを深く理解する
最初の段階では、ユーザーのニーズ・目標・課題を深く理解します。ユーザー調査やインタビュー、行動観察を通じて、実際にどんな場面で何に困っているのかを把握します。ここで重要なのは、作り手の思い込みではなく、ユーザーの視点に立つことです。
発注側でも、対象ユーザーが誰で、どんな業務や生活の中で使うのかを言葉にしておくと、後工程がぶれません。具体的なユーザー像を描く方法はペルソナ設計の基本で詳しく解説しています。
定義:解くべき課題を定める
共感で得た情報を整理し、解決すべき課題を明確に定義します。ペルソナを設定し、ユーザーが本当に困っている問題を絞り込むことで、プロジェクトの目標がはっきりします。ここが曖昧なまま進むと、機能だけ増えて誰の役にも立たないシステムになりがちです。
ペルソナやユーザーストーリーを整理する具体的な手順は、ペルソナ設計・ユーザーストーリーのつくりかたのテンプレートにまとめています。課題定義の前提を社内で揃えたいときに使えます。
発想:解決アイデアを広げる
課題が定まったら、解決策のアイデアを広げる段階です。ブレインストーミングやKJ法など、複数の手法を使ってできるだけ多くの案を出します。この段階では実現可能性を気にしすぎず、量を出すことを優先すると、後で磨ける選択肢が増えます。
発注者がアイデア出しに同席すると、現場の事情や制約が早めに共有でき、ベンダーが的外れな案に時間をかけるのを防げます。
試作と検証:プロトタイプで磨く
有望なアイデアは、プロトタイプとして形にします。プロトタイプは、初期段階で安く早くフィードバックを得るための手段です。最初から作り込まず、シンプルに素早く試せるものを用意し、何度も作り直せる状態にしておくのがコツです。具体的な作り方はモックアップの作り方が参考になります。
続く検証では、プロトタイプを実際のユーザーに使ってもらい、観察とデータから改善点を見つけます。テストは一度で終わらせず、繰り返してニーズに合うまで磨き込みます。この「試作して検証し、また戻る」サイクルを回せるかどうかが、UXデザインの成否を大きく分けます。
発注前にUX設計を要件へ落とし込む
ここがSucSakとして特に強調したい点です。UXデザインの成果は、最終的に「何を作るか」という要件へつながらなければ意味がありません。近年は、機能から考えるのではなく、ユーザー体験を先に設計し、そこから必要な機能を導く「UX先行型」の進め方も注目されています。
発注前に、ペルソナ・主要な利用シーン・達成したい体験・優先したい画面の流れを整理しておくと、ベンダーへ渡す要件が具体的になり、見積もりの精度も上がります。UXの設計と機能要件は地続きで、どちらか一方だけでは良いシステムになりません。両者の関係は要件定義と設計の違いで整理しているので、発注前の準備に役立ててください。
UXデザインを改善し続ける3つの視点
優れたUXは一度作って終わりではありません。ユーザーのニーズは変化するため、継続的な改善が欠かせません。発注後・運用フェーズでも実践しやすい改善の視点を紹介します。
1つ目は、自分がユーザーになって実際に使ってみることです。担当者自身が同じ手順で操作すると、資料では見えない「分かりにくさ」や「面倒さ」に気づけます。2つ目は、カスタマージャーニーの活用です。ユーザーが製品と関わる過程を時系列で可視化し、各タッチポイントでの行動・思考・感情を書き出すと、どこで離脱や不満が起きているかを特定しやすくなります。
3つ目は、7原則とプロセスを定期的に見直すことです。7原則のうち満たせていない項目がないかを点検し、検証で得た学びを次の改善へ回します。私の経験では、月に一度でもこの3つを習慣にしている組織は、UXがじわじわと良くなっていきます。大きな改修をまとめて行うより、小さな改善を積み重ねるほうが結果につながりやすいと感じます。
UXデザインのよくある質問
- Q. UXデザインとUIデザインはどちらを先に決めるべきですか?
- A. 先にUXデザインで「どんな体験を提供したいか」を定め、その方針に沿ってUIデザインで視覚的な形にするのが基本です。UIから決めると、見た目はよくても使われないものになりがちです。
- Q. UXデザインは社内でやるべきか、外注すべきか迷っています。
- A. ユーザー理解や課題定義は自社が主体で行い、調査設計やプロトタイプ制作など専門性が高い部分を外部に頼む、という分担が現実的です。すべてを丸投げすると、自社の意図が反映されにくくなります。
- Q. UXデザインの効果はどう測ればよいですか?
- A. 離脱率・完了率・問い合わせ件数・利用継続率など、体験の良し悪しが表れる指標を決め、改善前後で比較します。指標は施策を始める前に決めておくことが大切です。
- Q. UX設計は要件定義とどう関係しますか?
- A. UX設計で固めた体験や画面の流れが、そのまま要件定義の入力になります。発注前にUXを整理しておくと、要件が具体的になり、見積もりや開発の手戻りが減ります。
