稼働予定日を過ぎたのに完成していない。開発会社に聞いても「もう少しかかります」しか返ってこない。社内では「払ったお金は戻らないのか」という話が出始めている。そんな状況で検索してこの記事に来た方が多いと思います。

先に押さえておきたいことが1つあります。損害賠償を請求できるか、いくらまで請求できるかは、法律の一般論ではなく、自社が結んだ契約書の書き方でほぼ決まります。上限額、請求できる期間、遅延損害金の率は、どれも契約書と付属の書類に書いてある項目です。だから最初にやるのは、開発会社を責めることではなく、契約書のどこに何が書いてあるかを確かめることになります。

この記事では、遅延に気づいたときに発注側がやること(記録と申し入れ)と、損害賠償を請求できる範囲が契約書のどこで決まるのかを、経済産業省とIPAが公開しているモデル契約書の条項に沿って整理します。判例の解釈や勝てるかどうかの見通しには踏み込みません。

この記事のポイント

  1. 請求できる額の上限は契約書の付属書類に書いてある
  2. 遅延損害金は契約に書いていなければ法定利率の範囲にとどまる
  3. 払った委託料の返還と損害賠償は別に数える
  4. 自社の資料提供が遅れていると開発会社の免責事由になる
目次
  1. システム開発の遅延で損害賠償を考える前の記録
  2. 遅延は報告が薄くなるところから始まる
  3. 開発会社への申し入れは口頭で終わらせない
  4. 連絡協議会で決めたことを議事録に残す
  5. 自社の遅れは開発会社の免責事由になる
  6. システム開発の遅延で損害賠償を請求できる範囲
  7. 請求できる額の上限は契約書に書いてある
  8. 委託料の返還と損害賠償は別に数える
  9. 遅延損害金は契約に書かないと付かない
  10. 請求できる期間が契約で切られていることがある
  11. 総括:システム開発の遅延と損害賠償は契約と記録で決まる

システム開発の遅延で損害賠償を考える前の記録

開発会社から届いた進捗報告の紙を読み、遅れている箇所に付箋でメモを付けている場面
賠償の話に進む前に、遅れの経緯を記録として残しておきます

まず、発生直後にやることから整理します。ここでの行動が、あとで金額の話をするときの材料になります。

遅延は報告が薄くなるところから始まる

納期に間に合わないという連絡は、たいてい直前に来ます。ただ振り返ると、その何週間か前から兆候が出ています。進捗率のパーセンテージだけが並ぶ報告に変わる、テストの話題が出てこなくなる、これまで出ていた担当者が会議に来なくなる。このあたりが典型です。

私の感覚では、報告の中身が薄くなったタイミングで一度立ち止まって聞き直せていれば、間に合ったケースが少なくありません。もう遅れが出てしまっている段階でこれを言っても遅いのですが、次のプロジェクトでは効きます。作業予定表から遅れを読み取る具体的な見方はシステム開発のWBSで発注側が遅れを見抜く読み方で扱っています。

開発会社への申し入れは口頭で終わらせない

遅れが分かったら、電話や打ち合わせの場で「なんとかしてください」と言うだけで終わらせないほうがいいです。いつまでに何が終わるのかを、書面で出してもらいます。堅苦しい文書でなくてよく、メールで足ります。

納期そのものを変える場合は、もう少しはっきりした手続きになります。経済産業省とIPAが公開している情報システム・モデル取引・契約書(第二版)では、契約条件を変える場合は「ユーザ及びベンダが記名押印した書面によって行う」とされ、そのときに「価格及び納期の変更の有無、変更の内容についても協議・合意される」と書かれています。つまり納期を延ばすなら、金額の変更があるのかないのかも同時に決めるのが本来の形です。

ここを曖昧にしたまま作業を続けると、あとから追加費用を請求されたときに、合意した記録がなくて反論できなくなります。

連絡協議会で決めたことを議事録に残す

定例の打ち合わせは、遅延が起きてからは記録の場になります。IPAのモデル契約書は、連絡協議会でベンダが進捗管理報告を提出し、それに基づいて「遅延事項の有無、遅延事項があるときはその理由と対応策、推進体制の変更(人員の交代、増減、再委託先の変更など)の要否」を協議し、「決定された事項、継続検討とされた事項並びに継続検討事項がある場合は検討スケジュール及び検討を行う当事者等を確認する」と定めています。

この4点がそのまま議事録の項目になります。遅れている事実、その理由、対応策、次にいつ誰が何を検討するか。これを毎回残しておくと、あとで経緯を説明する必要が出たときに時系列で示せます。

逆に、口頭のやり取りしか残っていないと、何がいつ決まったのかを双方が別々に記憶している状態になります。平常時の進行管理の型は発注後の進行管理とシステム開発の外注管理にまとめてあります。

自社の遅れは開発会社の免責事由になる

請求を検討する前に、確認しておきたいことがあります。遅延の原因が自社側にもある場合、それは契約上の免責事由になり得ます。

IPAのモデル契約書には、こう書かれています。「ユーザが前項に基づきベンダに提供した資料等の内容に誤りがあった場合又はユーザが提供すべき資料等の提供を遅延した場合、これらの誤り又は遅延によって生じた費用の増大、完成時期の遅延、契約不適合などの結果について、ベンダは責任を負わない。」

役割分担の条項も同じ考え方です。「ユーザ及びベンダは、共同作業及び各自の実施すべき分担作業を遅延し又は実施しない場合若しくは不完全な実施であった場合、それにより相手方に生じた損害の賠償も含め、かかる遅延又は不実施若しくは不完全な実施について相手方に対して責任を負うものとする」とされています。遅れの責任は片側だけのものではないということです。

ですから請求の前に、自社側の宿題が期限どおりに出せていたかを棚卸しします。移行元データの提供、設計内容の承認、テスト要員の確保、現場へのヒアリング調整。ここが遅れていた記録が相手側に残っていると、話の前提が変わります。

請求を検討する前に自社側で確認すること

  • 移行元データや帳票サンプルを約束した期日までに渡せていたか
  • 設計書の確認と承認を、契約で決めた日数以内に返せていたか
  • 受入テストに出す現場要員を予定どおり確保できていたか
  • 仕様の追加や変更を、書面で合意せずに口頭で頼んでいなかったか

システム開発の遅延で損害賠償を請求できる範囲

契約書の冊子を開き、損害賠償の条項を指しながら2人で確認している場面
上限額と請求期間は、契約書と付属の書類に書かれています

ここからが金額の話です。結論として、上限も期間も率も、契約書側で決まっています。順番に見ていきます。

請求できる額の上限は契約書に書いてある

IPAのモデル契約書の損害賠償条項は、こうなっています。「本契約及び個別契約の履行に関する損害賠償の累計総額は、債務不履行、(契約不適合責任を含む。)不当利得、不法行為その他請求原因の如何にかかわらず、帰責事由の原因となった業務に係る別紙重要事項説明書に定める損害賠償限度額を限度とする。」

読み方は2つあります。1つは、請求の理由をどう組み立てても上限は同じだということ。もう1つは、その上限額は契約書本体ではなく「重要事項説明書」のような付属の書類に書かれているということです。自社の契約書を見るときは、本体の条文だけでなく別紙まで開いてください。

ただし例外があります。同条は「前項は、損害が損害賠償義務者の故意又は重大な過失に基づくものである場合には適用しないものとする」と続きます。故意や重大な過失があるケースでは上限が効かない建て付けです。何が重大な過失に当たるかは個別の判断になるので、ここは自分で結論を出さないほうがいい部分です。

なお、上限額そのものに相場はありません。IPAの解説は「具体的な損害賠償の上限額、損害の範囲・請求期間の制限については、個々の情報システムの特性等に応じて、個別に決定できるように記述している」としています。委託料相当額を上限にする例が多いですが、それも決まりではなく交渉事項です。

委託料の返還と損害賠償は別に数える

ここは混同されやすいところです。「払った200万円が戻ってくるのか」という話と、「それとは別に損害を請求できるのか」という話は、別に数えます。

IPAの解説には具体例が載っています。「解除に伴う原状回復としての委託料の返還は、損害賠償とは異なる」ため、「委託料250万円が上限となる規定があり、委託料が支払い済みである場合でベンダの債務不履行で解除となったとき、ベンダは250万円の委託料の返還に加え、250万円を上限とする損害賠償を請求される可能性が出てくる」とされています。

つまり上限額が委託料と同額だったとしても、返還と賠償を合わせた総額は上限額と一致しません。社内で金額を試算するときは、この2つを分けて並べたほうが説明しやすくなります。

また、請求できる損害の範囲も契約で絞られていることがあります。IPAの解説は、範囲を制限する場合の書き方として「通常損害のみについて責任を負い、特別事情による損害、逸失利益についての損害や間接損害を負わない」とする例を挙げています。この形になっていると、稼働が遅れて逃した売上は対象から外れる可能性があります。

遅延損害金は契約に書かないと付かない

「1か月遅れたらいくら」という遅延損害金を期待している方は多いのですが、自動では発生しません。

IPAの解説はこう書いています。「なお、遅延損害金についてシステム基本契約書では定めをおいていない。法定利率である年3%(民法第404条。但し、3%は令和2年4月1日時点のもので、3年ごとに変動しうる。)を超える割合の遅延損害金を定める場合は、別紙重要事項説明書上の各本件業務における『特約条項』欄に記載されたい。」

整理すると、契約に何も書いていなければ法定利率の範囲にとどまり、それより高い率にしたいなら特約として先に書いておく必要があります。工事契約でよく見る「遅延1日あたり請負金額の何パーセント」という形の違約金も、契約に書いていなければ請求の根拠になりません。次の発注では、この欄を空欄のままにしないのが備えになります。

ひとつ注意したいのが、言葉の紛らわしさです。取引適正化の法令には、発注側が代金を期日までに払わなかった場合の遅延利息として年14.6%という数字が出てきますが、これは発注側が支払いを遅らせたときの話で、開発会社が納期に遅れたときの遅延損害金とは別のものです。検索すると同じ「遅延」という言葉で混ざって出てくるので、区別して読んでください。

請求できる期間が契約で切られていることがある

最後に期間です。損害賠償条項の第1項には但書が付いています。「別紙重要事項説明書に請求期間が定められている場合は、法令に基づく請求期間にかかわらず重要事項説明書に定める期間の経過後は請求を行うことができない。」

法令上の期間とは別に、契約で短く切れるということです。ここも見る場所は別紙です。社内で検討しているうちに期間が過ぎてしまうと、内容にかかわらず請求ができなくなります。遅延が長引いているケースほど、先にこの期間を確認しておいたほうがいいです。

自社の契約書で見る場所をまとめておきます。

確認したいこと 書かれている場所 空欄だった場合
賠償の上限額 重要事項説明書などの別紙の損害賠償限度額 上限の定めがない状態。個別に確認が必要
請求できる期間 別紙の請求期間の欄 法令上の期間で考えることになる
遅延損害金の率 別紙の特約条項の欄 定めなし。法定利率の範囲にとどまる
損害の範囲 損害賠償条項の本文 範囲を絞る記載がないか読み合わせる
納期変更の手続き 契約条件の変更に関する条項 書面での合意手続きを個別に取り決める

契約書全体でほかに何を見るべきかは受託開発の契約で発注者が確認すべきことに整理してあります。発注前の段階で納期や体制の条件を詰めておきたい場合は、ベンダーコントロールパーフェクトガイド(品質・納期・コスト・リスク・契約の実務ガイド)で押さえる論点を確認できます。