基幹システムの刷新を進めていたら、上から「補助金は使えないのか」と言われた。調べてみると制度はいくつもあるものの、申請の手続きと開発会社への発注をどの順番で進めればいいのかが分からない。見積もりはもう取ってしまったけれど大丈夫なのか。基幹システムの補助金を調べる方は、たいていこのあたりで手が止まります。

最初に押さえてほしい点がひとつあります。多くの制度では、交付決定の通知を受け取る前に契約・発注・支払いをしてしまうと、その費用は補助の対象外になります。あとから遡って認めてもらうことはできません。つまり補助金を使うかどうかは、開発会社に発注する前に決めておく必要があります。この記事では制度の一覧や補助率ではなく、発注側が押さえる前提と、締切から逆算したスケジュールの組み方を整理します。

この記事のポイント

  1. 交付決定の前に契約・発注・支払いをすると、その費用は補助の対象外になる
  2. 補助金は後払いなので、実施の時点では全額を自社で立て替える必要がある
  3. 自社の人件費や単純な保守・改修は対象から外れやすく、範囲の切り方で結果が変わる
  4. 公募締切から逆算し、要件整理・見積取得・社内決裁の期限を先に置く
目次
  1. 基幹システムで補助金を使うときの前提
  2. 交付決定の前に発注すると対象外になる
  3. 補助金は後払いなので全額を立て替える
  4. 対象になりやすい費用と外れやすい費用
  5. 制度ごとの要件は公募要領で確認する
  6. 基幹システムの補助金は締切から逆算する
  7. 公募締切から逆算する4つの期限
  8. 開発会社に最初に伝える3つのこと
  9. 補助金ありきで範囲を膨らませない
  10. 基幹システムの補助金についてよくある質問
  11. 総括:基幹システムの補助金で先に決める段取り

基幹システムで補助金を使うときの前提

費目が並んだ印刷資料の行にペンでチェックを入れ、対象経費かどうかを確認している手元
制度ごとに対象経費が違うため、見積もりの費目ごとに当てはめて確認する

制度の名前や補助率より先に知っておきたいことが3つあります。どれも知らずに進めると、申請そのものが通らなくなったり、通っても入金されなかったりする類のものです。

交付決定の前に発注すると対象外になる

いちばん多い失敗がこれです。申請して審査が終わり、交付決定の通知を受け取ってから契約・発注・支払いを行う。この順序が守られていないと、その費用は補助の対象になりません。過去にさかのぼって認められることはなく、事務局も実施時期を厳しく確認します。

実務で困るのは、検討を進めるうちに開発会社と話が固まり、口頭で「ではお願いします」と言ってしまう場面です。見積もりを取ること自体は問題ありませんが、契約書を交わす、発注書を出す、着手金を払う、といった行為は交付決定を待つ必要があります。手続きの流れはIT導入補助金の公式サイト(交付決定後に必要な手続き)で公開されているので、自社が使う制度の該当ページを一度読んでおいてください。

開発会社にも早い段階で伝えておくと安全です。補助金を使う案件だと分かっていれば、交付決定までは見積もりの有効期限を延ばす、着手を待つ、といった対応をしてもらえます。伝えていないと、良かれと思って先に着手されてしまうことがあります。

補助金は後払いなので全額を立て替える

もうひとつ見落とされやすいのが資金繰りです。補助金は実施して支払いを終え、実績報告が承認されてから入金されます。つまり開発費は一度、全額を自社で払う必要があります。

基幹システムの刷新は金額が大きく、支払いから入金までの期間も数か月になります。「補助金が出るから予算はこれで足りる」と考えていると、途中の資金繰りで詰まります。予算を組むときは補助金を差し引く前の総額で見ておき、入金は後から戻ってくるものとして扱ってください。刷新そのものの費用構造は基幹システム刷新の費用相場はいくら?内訳と見積もりの読み方で整理しています。

入金までの期間も見込んでおく必要があります。支払いを終えてから実績報告を提出し、それが承認されて振り込まれるまでには、制度にもよりますが数か月かかります。支払いが年度をまたぐ場合は、会計上どの期の費用として扱うかも経理と先に確認しておいてください。手元資金で回らない見込みなら、申請の段階で取引金融機関にも相談しておくと、いざというときの選択肢が増えます。

対象になりやすい費用と外れやすい費用

どの費目が対象になるかは制度ごとに違いますが、傾向はあります。おおまかには次のように分かれます。

対象になりやすい 外れやすい
ソフトウェアの購入費・開発費 自社の従業員が動いた分の人件費
クラウドサービスの利用料(一定期間分) 稼働後の保守費・運用費
導入に伴う設定・データ移行の作業費 既存システムの単純な保守や不具合修正
導入時の教育・研修費 汎用のパソコンや周辺機器

ここで効いてくるのが、範囲の切り方です。同じ刷新でも「今の仕組みをそのまま作り直すだけ」の説明では、単純な置き換えと見なされて弱くなります。逆に、二重入力をなくして処理時間を短縮する、データを一元化して在庫の精度を上げる、といった生産性の向上として説明できると通りやすくなります。事実を作る必要はなく、実際にやることのうち何を前面に出すかという整理の問題です。

見積書は申請書類の一部になります。費目の書き方が粗いと、対象と対象外が分けられずに差し戻されます。開発会社には「補助金の申請に使うので、ソフトウェア開発費・設定作業費・保守費を分けて書いてほしい」と最初に依頼してください。見積もりの危険サインを見抜く60項目チェックシートで前提条件の抜けを点検しておくと、この分け方も確認しやすくなります。

なお、対象外の費用を見積もりから削る必要はありません。削ってしまうと、プロジェクト全体でいくらかかるのかが社内で見えなくなります。対象になる費目と対象外の費目を同じ見積書の中で分けて並べ、そのうち補助の対象として申請する分だけを抜き出す形にしてください。稟議の場でも「総額はいくらで、そのうち補助が見込めるのはここまで」と説明できるほうが通ります。

制度ごとの要件は公募要領で確認する

補助金の要件は年度ごとに変わります。補助率、上限額、対象事業者の条件、対象経費の区分、どれも前年と同じとは限りません。ネット上の解説記事は前年度の内容が残っていることも多いので、最終的な判断は必ずその年の公募要領で確認してください。

どの制度が候補になるかを先に把握したい場合は、システム開発で使える補助金4選を紹介!申請の注意点もあわせて解説で主要な制度を整理しています。本記事は制度選びの後、発注をどう組み立てるかの部分を扱っています。

基幹システムの補助金は締切から逆算する

卓上カレンダーの日付をペンで指しながら、締切から逆算した期限を2人で決めている場面
公募締切ではなく、その手前の社内の締切を先に置くと間に合う

ここからが本題です。補助金を使う案件でスケジュールが崩れるのは、公募締切だけをカレンダーに書いて、その手前の作業を積んでいないからです。

公募締切から逆算する4つの期限

申請書を書き始める時点で、見積書と事業計画の中身が固まっている必要があります。そこから逆算すると、社内には次の4つの期限が生まれます。

締切からの目安 終えておくこと
8週間前 対象業務の範囲と、刷新で何を改善するのかを文章にする
6週間前 開発会社に相談し、費目を分けた見積もりを依頼する
4週間前 見積もりを受け取り、社内の決裁を通す
2週間前 申請書と添付書類を仕上げ、電子申請の準備を終える

この週数はあくまで一般的な目安で、制度や社内の決裁フローによって変わります。特に見積もりは、範囲が固まっていないと開発会社もすぐには出せません。1社だけに頼むなら2週間、複数社を比べるなら3〜4週間はみておいてください。

電子申請には事業者の登録が必要な制度もあり、その手続き自体に日数がかかります。締切直前に登録から始めると間に合わないので、候補の制度が決まった時点で登録だけ先に済ませておくと安心です。

もうひとつ、公募には複数の締切が設けられていることがあります。今回の回に間に合わなくても次の回があると分かっていれば、無理に急いで粗い計画で出すより、次回に照準を合わせたほうが採択の可能性は上がります。締切を1つしか見ていないと「今しかない」と焦って範囲を詰め切れないまま申請してしまうので、候補の制度については年間のスケジュールを最初に確認しておいてください。

開発会社に最初に伝える3つのこと

相談の初回で次の3点を伝えておくと、あとの手戻りがほぼなくなります。

開発会社に最初に伝えること

  • 補助金の申請を予定していること(制度名と公募締切も伝える)
  • 交付決定が出るまでは契約・着手をしない前提であること
  • 見積書は費目を分けて出してほしいこと(開発費・設定作業費・保守費など)

加えて、実績報告の段階で必要になる書類も先に確認しておいてください。契約書の写し、請求書、振込の控え、納品書、検収書。制度によっては導入したシステムの画面や作業の記録を求められることもあります。稼働後に慌てて集めるより、開発会社と最初に取り決めておくほうが確実です。

補助金の対応に慣れている開発会社かどうかも、初回で聞いておくとよいです。慣れていれば、見積書の書き方や交付決定を待つ進め方をこちらから説明しなくても通じます。

補助金ありきで範囲を膨らませない

気をつけたいのが、補助金を前提に範囲を広げてしまうことです。「補助が出るなら、この機能も一緒に」と足していくと、採択されなかったときに予算が合わなくなります。

採択率は制度や年度によって変わり、申請すれば必ず通るものではありません。だからこそ、申請する前に「採択されなかった場合はどうするか」を決めておいてください。範囲を縮めて実施するのか、時期を1年ずらすのか、自己資金だけで進めるのか。この判断を先に社内で合意しておくと、結果が出たあとに止まりません。

おすすめは、補助金がなくても実施する中核部分と、採択されたら追加する部分を最初から分けて見積もることです。刷新そのものの進め方や優先順位の付け方は基幹システムのリプレイスとは?進め方と発注側の判断基準で整理しています。

基幹システムの補助金についてよくある質問

Q. すでに見積もりを取ってしまいましたが、補助金は使えますか?
A. 見積もりを取っただけなら問題ありません。対象外になるのは契約・発注・支払いを済ませてしまった場合です。ただし見積もりには有効期限があるため、交付決定までの期間を見込んで開発会社に延長を相談しておいてください。すでに契約を交わしている場合は、その費用は対象になりません。
Q. 基幹システムの刷新は、そもそも補助の対象になりますか?
A. 制度によります。ソフトウェアの導入・開発費を対象とする制度なら候補になりますが、既存システムの単純な置き換えだけでは弱くなります。二重入力の解消や処理時間の短縮など、生産性の向上として説明できるかどうかが分かれ目です。要件は年度ごとに変わるので、必ずその年の公募要領で確認してください。
Q. 申請は自社でやるべきですか、支援会社に頼むべきですか?
A. 事業計画の中身は自社にしか書けないので、丸投げはできません。支援会社に頼む場合も、書類作成の代行という位置づけになります。手数料は成功報酬型が多く、補助金額に対する割合で設定されます。初めてで社内に時間が取れないなら頼む価値はありますが、その費用も含めて採算が合うかを先に計算してください。
Q. 交付決定まではどれくらいかかりますか?
A. 制度によりますが、申請から交付決定まで1〜2か月程度みておくのが一般的です。そのあいだは契約も着手もできないため、稼働希望日から逆算するとこの期間を計画に組み込む必要があります。年度末の稼働を狙う場合は、この待ち時間で間に合わなくなることがあるので特に注意してください。